はじめに
独BMWの日本法人がディーラー契約を結ぶ販売店に対し優越的地位の濫用に該当する行為を行っていたとして、公正取引委員会に改善計画を提出していたことがわかりました。過剰なノルマ等を課していたとのことです。今回は独禁法が規制する優越的地位の濫用について見直していきます。
事案の概要
朝日新聞によりますと、BMWの日本法人は遅くとも数年前から同社とディーラー契約を結ぶ販売店に対し通常の営業活動では達成が難しい販売目標を設定し、その目標に満たない台数分は販売店に購入させていたとされます。これにより2019年9月には公取委が立入検査を行っており、その頃から正規ディーラーが運営する中古車販売店では自社購入させられた新車が「新古車」として多数販売されていたとのことです。
優越的地位の濫用とは
優越的地位の濫用とは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して正常な商慣習に照らして不当に、相手方に商品等を購入させたり、金品等を提供させるといった行為をいいます(独禁法2条9項5号)。19条によって禁止されており、違反した場合には排除措置命令(20条)や課徴金納付命令が出されることとなります(20条の6)。課徴金は継続して行われた濫用行為の場合に課され、課徴金額は売上の1%となっており、その額が100万円未満であるときは免除されます。
具体的要件
(1)地位の優越性
優越的地位の濫用は、その名のごとく地位が相手方よりも優越している場合に成立します。具体的には相手方にとって自己との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、相手方にとって著しく不利益な要請等を行っても相手方が受け入れざるを得ない場合を言います。その判断にあたっては、相手方の自己に対する取引依存度、自己の市場における地位、相手方の取引先変更の可能性、その他自己と取引することの必要性等を総合的考慮するとされております。日本全国でシェア1位、2位を争うチェーン店とその卸売業者といった場合が典型例と言えます。
(2)正常な商慣習に照らして不当に
2条9項5号に言う「正常な商慣習に照らして不当に」とは、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認される商慣習に反している状態を言います。現に存在している商慣習に合致していても、それだけでその行為が直ちに正当化されることにはならないと言われております。
(3)行為類型
具体的にどのような行為が優越的地位の濫用に当たるかについて2条9項5号イ~ハに規定が置かれております。継続して取引する相手方に対し取引に係る商品または役務以外のものを購入させること(イ)、継続して取引する相手方に対し、金銭、役務、その他の経済上の利益を提供させること(ロ)、相手方から取引に係る商品の受領を拒み、受領した商品を引き取らせ、代金の支払いを遅らせ、または減額し、その他不利益となるような条件を設定すること等が挙げられております。従業員等の派遣要請や協賛金の要請などが典型例と言えます。
コメント
本件でBMWの日本法人はヂュ-ラー契約を締結する販売店に対し過大なノルマを課した上で残った分は販売店に購入させていたとされます。これは独禁法2条9項5号イまたはハに該当し得る行為と考えられます。同社では今後販売店との合意のもとで合理的な販売目標を設定するなど再発防止につとめるとしております。以上のように優越的地位の濫用に該当する行為類型は多岐にわたっており、自社よりも立場の低い相手方に対するあらゆる不利益行為が該当することになります。またさらに一定の条件のもとでは下請法が適用されることとなります。取引相手や下請け業者との契約内容等を今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。