はじめに
乾汽船の株主アルファレオホールディングス(以下アルファレオ)による昨年と一昨年の定時株主総会の取消を求める訴訟で4月、東京地裁が請求を棄却していたことがわかりました。
特別利害関係人の決議への参加や株主への招集通知期間が争点となっていたとのことです。今回は株主総会の瑕疵について見直していきます。
事案の概要
日経新聞の報道などによりますと、乾汽船の2019年の定時株主総会で敵対的買収防衛策(事前予告型ライツプラン)の承認を皮切りに、同社株主であるアルファレオによる臨時株主総会招集請求や株主提案が相次ぎ、両社の対立が激化していったとされます。
アルファレオ側の提案では防衛策の廃止や取締役の報酬引き下げ、剰余金配当などが求められておりましたがいずれも否決され、株主総会決議取消を求め提訴にいたったとのことです。
主な争点は決議に利害関係人が参加していたことや、書面による議決権行使期限が総会前日の午後5時であったところ、招集通知発送からその日までの間に14日間が確保されていなかったことなどが挙げられております。
株主総会決議取消の訴え
会社法831条1項によりますと、株主総会の招集手続き、決議方法に法令・定款違反、著しく不公正な場合、決議内容の定款違反がある場合、特別利害関係人が決議に参加している場合には株主等は決議の日から3ヶ月以内に決議取消の訴えを提起できます。
招集通知の記載不備や解任議案で該当役員が決議に加わっている場合などが典型例と言えます。決議内容が法令に違反している場合は取消の訴えではなく決議無効確認の訴え(830条)によることとなります。
取消の訴えで請求が認容された場合、決議は遡及的に無効となり、また訴訟当事者以外の第三者にも効力が及びます(対世効、838条)。
なお違反事実が認められても、それが重大ではなく決議に影響も及ぼさないと認められるときは裁判所は棄却することができます(裁量棄却、831条2項)。
取消原因
(1)招集手続の瑕疵
株主総会決議取消の訴えの対象となる招集手続きに関する取消原因としては、
・取締役会による決議を経ていない(298条4項)
・取締役会設置会社で口頭での招集、招集通知期限違反(299条1項)
・招集通知に開催日や場所の記載不備
・株主が出席困難な場所での開催
・備え置きに不備のある計算書類の承認
などが挙げられます。
招集通知期限については、開催日と発送日を除いて2週間の期間が必要で、具体的には開催日の15日前までに発送する必要があります。
なお書面・電子投票の期限が開催前日である場合については明文はありませんが、さらにその日を除いた15日前までと考えられております。
(2)議決権行使に関する瑕疵
議決権行使に関しては、
・一部株主の議決権行使を妨害したり、代理人による議決権行使を違法に制限した場合(310条)
・特別利害関係人が議決権を行使し、それにより著しく不当な決議となった場合
が挙げられます。
なお取締役会決議では特別利害関係人(代表取締役解任動議での代表取締役本人など)は決議に参加できませんが、株主総会では参加自体は禁止されておらず、参加した結果不当な決議となった場合のみ取消原因となります。
(3)総会運営に関する瑕疵
総会での運営については、
・定款で定めた議長が関与せず決議された場合
・従業員株主を他の株主より先に入場させて前方に着席させた場合(最判平成8年11月12日)
・従業員株主に「異議なし」など発言させて一方的に議事を進行させた場合
・株主提案を無視して決議がなされた場合
・招集通知に記載されていない事項について決議がなされた場合
・監査役や会計監査人の監査を経ていない計算書類が承認された場合
・説明義務違反があった場合
などが挙げられます。
招集通知記載については、取締役1名選任と記載しておき、実際には2名選任するといった場合です。取締役を複数選任する場合は累積投票を請求できるからです(342条)。
コメント
本件で争点となっていたのは特別利害関係人の決議への参加と招集通知期間の不備などとされております。いずれも認められた場合には決議取消原因となる事由と言えますが、東京地裁はいずれの総会についても棄却または却下しました。
しかし招集通知については、書面決議の行使期限が総会前日であったことから、その日からさかのぼって15日前までに通知しなくてはならず、1日足りなかった点については違法であったと認めたものの、決議に影響を及ぼさないことから裁量棄却されたとされます。以上のように株主総会の手続きに関しては様々な取消原因が存在します。
本件で問題となった招集通知期限についても多くの会社で不備があると言われております。今一度自社の手続きを見直しておくことが重要と言えるでしょう。