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市民団体が五輪中止を求め申し立て、仮処分命令とは

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はじめに

 新型コロナウイルス感染拡大により、東京五輪・パラリンピックが安全に開催できないとして、五輪開催に反対する市民団体が9日、開催差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てていたことがわかりました。 今回は民事保全法が規定する、仮処分命令について見直していきます。

事案の概要

 報道などによりますと、1998年の長野冬季五輪に反対する立場から結成された市民団体「オリンピックいらない人たちネットワーク」のメンバーら4人は、コロナ禍による4回目の緊急事態宣言が出される東京で安全に開催できる根拠は無いとして、東京五輪開催差し止めの仮処分を申し立てました。  メンバーの1人は開幕まで2週間となっても五輪に反対する声があるということを示すことに意義があるとしております。また国連機関に対しても五輪中止の勧告をするよう求める意見書を提出しているとされます。

民事保全法の仮処分とは

 何らかの紛争が生じて裁判に訴えるとしても、通常判決が確定するまでには年単位の期間を要します。それまで待っていたのでは取り返しがつかない損害が生じることもあり得ます。そこで権利を保全する暫定的な処分が認められております。それが仮処分命令です。  民事保全法が規定する保全命令には大きく分けて仮差押と仮処分があり、仮処分には係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分があります(20条、23条)。仮差押は金銭債権を保全するためのもので、預金債権や動産・不動産を仮に差し押さえます。  係争物に関する仮処分は、例えば不動産の所有権に争いがある場合に、第三者に売却等が行われてしまうことを防止するといった目的で利用されます。そして仮の地位を定める仮処分は、違法行為の差し止めや、労働者としての地位の確認、出版差し止めなどあらゆる権利関係の保全に利用できます。

仮処分の手続き

 仮処分の申し立ては書面で、申し立ての趣旨、被保全権利または権利関係の存在、保全の必要性を明らかにして行います(13条1項、規則1条1号)。被保全権利の存在や保全の必要性は即時に取り調べられる証拠によって疎明します(13条2項)。  申し立てがなされたら裁判所で審尋がなされます。密行性があり相手方に知られたら目的物を処分されてしまうなどの危険性がある係争物に関する仮処分では相手方の審尋は行われませんが、仮の地位を定める仮処分では必ず相手方も呼ばれます(23条4項)。審尋や疎明資料により裁判官が保全の要件を満たすと判断したら仮処分命令が出されます。

不服申立て

 仮処分申立てが却下された場合、申立て人は2週間以内に即時抗告をすることができます。そして仮処分命令が出された場合、相手方は保全異議と保全取消を申し立てることができます。  保全異議とは、被保全権利または保全の必要性は無いとして申し立てるもので、期間制限はありません。  そして保全取消は、仮処分命令がでたが、原告側が本案の訴訟を提起しない場合や、その後弁済などによって被保全権利は消滅した、または仮処分により回復できない損害が生じるといった特別の事情がある場合に申し立てることができます(37条~39条)。 仮処分はあくまで本案訴訟が確定するまでの暫定的な処分であることから、正式な訴訟で勝訴する必要があるということです。

コメント

 本件で市民団体側は東京五輪開催差し止めの仮処分を東京地裁に申し立てました。今後主催者側も含めた審尋がなされ、被保全権利と保全の必要性について審理がなされていく見通しと言えます。仮処分は迅速性を要することから、早い場合は数週間で出されますが、原発運転差止などの複雑な事案では数ヶ月を要することもあります。今回は五輪開会式までには結論が出るのではないかと思われます。  以上のように仮の地位を定める仮処分はあらゆる権利関係で申し立てることができます。労働者への未払い賃金、交通事故による損害賠償、日照権や違法建築、名誉毀損やプライバシー侵害などあらゆる場合で利用可能です。 取引先や消費者とのトラブルやメディアによる名誉毀損的表現などがあった場合には迅速に仮処分申し立てを検討していくことが重要と言えるでしょう。

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