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Q&Aで学ぶ契約書作成・審査の基礎 第9回 – 契約期間・自動更新条項

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  今回から, 各種契約共通の部分・条項の解説をします。今回は, 契約期間とその更新に関する条項について解説します。[1] なお, 本Q&Aは, 全く新任の法務担当者(新卒者や法学部以外の出身者を含む)も読者として想定しているので, 基本的なことも説明しています。
 

【目  次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1:契約期間とは?

Q2:契約期間・自動更新条項の例は?

Q3:継続的な契約で契約期間を定めないと?

Q4: NDAに契約期間は必要? 秘密保持期間との関係は?

Q5:自動更新条項の目的・長短は?

 
 

Q1:契約期間とは?

A1: 一般的に, 以下のような意味があります。 ①その性質上給付が継続する契約の場合 賃貸, ライセンス, オンラインサービス等, その性質上給付(契約当事者が相手方に対しなすべき行為。ここでは賃貸, ライセンス, サービス提供等)が継続する契約の場合, その給付の継続期間を意味します。 ②取引基本契約の場合 注文書・注文請書により成立する個々の契約(個別契約)に共通して適用される条件を規定した契約(一般に「取引基本契約」という)では, 個別契約の注文が可能な期間を意味します。 【契約期間の開始日】一般に, その給付が開始される日またはその契約の適用が開始される日を意味します。 【契約期間の満了日】一般に, その給付が終了する日またはその契約の適用が終了する日を意味します。従って, 以後当事者は原則として相手方に対する給付の義務を負いません。 【契約期間の定めが必要な契約・不要な契約】単発の売買等, 1回限りの給付(売買では売買目的物引渡し)で完了する取引では契約期間を定める必要はありません。また, 秘密情報の開示が一度で終了する秘密保持契約では秘密保持期間とは別に契約期間を定める必要はありません。 契約更新拒否が法律上制限されている場合借地借家法(6, 28等)等があります。  

Q2:契約期間・自動更新条項の例は?

A2:以下に一つの条項例を示します(「①」等は解説で引用するための便宜上の番号です)。
 

①第〇条 ②有効期間

本契約の有効期間は, ③○○年○○月○○日から④1年間とする。⑤但し, 当該期間満了日の⑥3か月前までにいずれの当事者からも⑦別段の意思表示が書面で相手方に通知されない限り, 本契約は, ⑧同一の条件で, 更に⑩1年間更新されるものとし, ⑪以後も同様とする。

(注) ① 契約期間条項が置かれる場所は, 一般に, 契約期間がその契約の重要な要素である場合(例:賃貸借, ライセンス契約)では最初の方に置かれ, 取引基本契約等では契約書後半に置かれます。 ②「有効期間」は「契約期間」でも構いません。 ③契約期間開始日:このように具体的な日を記載する場合の他, 「本契約末尾記載の締結日」等の記載方法もあります。後者の場合は, 営業部門が契約書本体には手を加えず, 相手方当事者名, 契約締結日等の指定箇所だけ記入できることとしている場合に便利な表現です。 ④契約期間:一般的には1年間が多いと言えます。しかし, 各当事者の立場により長短いずれが良いかが異なる場合があります。 ⑤但書部分が自動更新条項と呼ばれます。 ⑥この期間(以下「不更新予告期間」という)は, 各当事者の立場により長短いずれが良いかが異なる場合があります(Q6参照)。 ⑦「別段の」とは, 同一条件で更新する以外の, という意味です。この他, 「解約の(申し出)」等とする例がありますが, 解約は通常契約期間中の解除を意味するので正確ではありません。「何らの(意思表示も)」とする例もあり基本的には問題はありませんが, 理屈上は同一条件で更新したい旨の意思表示も含まれてしまうようにも思われます。⑦の後半は単に「... 意思表示がなされない限り」との表現が多いですが, これでは, 口頭での意思表示も含まれその意思表示があったかなかったか(従って契約が更新されるか否か)が争われる可能性もあるので, 上記条項例では, これを避けるため, 「書面で相手方に通知されない限り」にしています。これを明記していない場合でも, 自社が不更新通知をする場合は, 必ず書面でかつ通知したことの証拠が残るよう通知すべきでしょう(例:状況により, 配達証明付き内容証明郵便で)。 ⑧「同一条件で」の部分がない例もありますが, 意味明確化のため明記した方がいいでしょう。 ⑨更新後の契約期間は, 最初の契約期間と同じ例が多いですが, 最初は1年間, その1年間で様子を見て取引を継続しても大丈夫と判断したら更新期間は2年間ずつ等でも構いません。 ⑩「以後も同様とする」とは, 2度目, 3度目の更新も同様の手続で行うことができるという意味です。  

Q3:継続的な契約で契約期間を定めないと?

A3:期間の定めのない契約となり, 解除(解約)[2]されるまで契約が継続することになります。

【解 説】

その性質上給付が継続する契約であっても, 確定した契約期間の定めがない契約(「期間の定めのない契約」)もあり[3],  契約期間が必須というわけではありません。期間の定めのない契約は, 基本的に, それが両当事者の合意によりまたはいずれかの当事者から解除(解約)されるまで有効に継続することになります。期間の定めのない契約は, 原則として, どちらの当事者からもいつでも解除できると解されています(参考:民法第617条・第651条等)。しかし, 販売店契約等で相手方保護の必要性がある場合, 一方当事者からの解除については, 解除の有効性・解除予告期間の十分性・相手方に対する損害賠償等が問題となることがあります[4]。 これに対し, 確定した契約期間の定めがあれば, その契約期間満了日にはより確実に契約を終了させることができます。  

Q4:秘密保持契約に契約期間は必要?秘密保持期間との関係は?

A4: 秘密情報の開示が1回限りであれば契約期間の定めは不要です。秘密保持契約の契約期間と秘密保持期間とは別のものです。

【解 説】

秘密保持契約で秘密保持期間とは別に契約期間が定められている場合, 秘密情報を交換する期間または相手方から開示を受けた秘密情報を利用できる期間を意味します。 但し, 実際の秘密保持契約またはその案の中には, そこで定める期間がどちらを意味するのか不明なものを見かけますが, これは明確にする必要があります。  

Q5:自動更新条項の目的・長短は?

A5:以下の通りです。

【解 説】

【自動更新条項の目的】契約期間を定めた場合, その期間が満了すれば原則として契約はその満了日に終了し, その後も契約関係を継続させたい場合には, 再度契約を締結することになります。しかし, 最初の契約期間満了後も同一条件で契約を継続させる可能性があるのであれば, この再契約の手間を省略するため, 最初から自動更新条項を入れておくのが便利です。これが自動更新条項の目的です。 【自動更新条項のメリット】自動更新条項があれば, 再契約の手間が省略できます。また, 契約期間が満了しているのに気付かず契約がない状態になるということが回避できます。 【自動更新条項のデメリット】一方の当事者が, 更新の意図がない場合または更新・不更新を迷っている場合でも, 気付かずに不更新予告期間を過ぎてしまうと, 契約が自動的に更新してしまい, 例えば, 賃貸借契約・ライセンス契約等では, その賃貸借・ライセンス・支払い等を継続せざるを得ません。一方, 一般の取引基本契約では, どちらの当事者にも個々の契約(個別契約)を成立させる義務はないのでこのようなデメリットはありません。 【自動更新条項は必ず入れた方がよいか?】 上記のようなデメリットもあるので必ず入れた方がよいといえません。また, 相手方に独占的な権利を与える場合(例:独占的販売契約, 独占的特許ライセンス契約)その他自社側の制限・負担も大きい場合は, 契約期間満了時期に, 改めて契約の継続・不継続の判断, 価格・対価その他契約条件の見直し・変更交渉等を行うため, むしろ, 自動更新条項がない方がよい場合もあります。  

Q6:更新時期・不更新予告期間の決め方は?

A6:以下の通りです。

【解 説】

不更新予告期間としては, 筆者の経験上3か月が最も多いと言えます。例えば, 最初の契約期間を契約締結日の2021年9月28日から1年間, 不更新予告期間を3か月間(契約期間満了日の3か月前まで), 1年間ずつ更新とした場合は, 毎年, 6月28日までに不更新予告, その予告がなければ, その年の9月28日から翌年9月28日まで更新されることになります。 3か月が多いのは, おそらく, 最初の契約期間が1年の場合, 契約期間開始日から9か月も経てば, 相手方の契約履行状況, 相手方が取引先として信頼できるか, 相手方の購入量・販売実績等の情報がある程度判明し契約を更新すべきか否かの判断が可能だからということでしょう。 従って, 例えば, 独占的販売契約, 独占的特許ライセンス契約等の場合, 供給者・ライセンサー側としては, 可能な限り, 契約期間満了日のぎりぎりまで不更新通知ができるのがよいことになります。一方, 販売店・ライセンシー側としては, 仮に, 契約が不更新になるとしても, 可能な限り早期にそのことが分かり以後の対応策を検討・実施できた方がよいので, 不更新予告期間が長い方がよいことになります。 【多数の販売店(または納入業者)と自社ひな型の販売(または購買)基本契約を締結する場合】 例えば, 更新日を自社会計年度末日(例:3月31日)または暦年年末(12月31日)に揃え, かつ, 不更新予告期間も共通の同一期間とし, 予め社内で定めた期間までに販売店(または納入業者)全社について売上(または納入)実績を審査した上売上高が低い販売店(または納入成績が悪い納入業者)には不更新通知をするようにすれば, うっかり更新の回避, 契約一斉改訂等がし易いでしょう。   今回はここまでです。  

「Q&Aで学ぶ契約書作成・審査の基礎」シリーズ

(参考)「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎」シリーズ

[5]                   【注】                                    [1] 【本稿作成に当たり参考とした主な資料】 (1) 阿部・井窪・片山法律事務所 (編集)「契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版」 2019/9/24, 有斐閣 p 531-534, (2) 河村寛治「改訂版 契約実務と法-リスク分析を通して」 2014/2/4,  第一法規株式会社 p 113-115, (3) 滝川宜信「取引基本契約書の作成と審査の実務(第4版)」 2012/04/18, 民事法研究会  p 268-271, (4) 長瀨 佑志, 長瀨 威志, 母壁 明日香 「現役法務と顧問弁護士が実践している ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方」 2017/6/24, 日本能率協会マネジメントセンター  p 77,78 [2] 【「解除」と「解約」】 契約の「解除」とは, 契約締結後, 当事者の一方の意思表示によって, その効力が最初から存在しなかったのと同じ状態にすることをいいます(民法第545条)。これに対し, 「解約」は, 賃貸借契約のような継続的な契約関係の場合に, その効力を最初から消滅させることは不可能なので, 将来に向ってのみ効力を消滅させるときに用いられます(民法第617条)。しかし, 法令上もこの「解約」の意味で「解除」の用語を使っている場合もあり(例:民法第651条), 実際の契約でも同様です。従って, 「解約」, 「解除」の意味がどちらであるかは, 文脈等から判断しなければなりません。従って, 使い分けせず, 全て「解除」でも構いません。 [3] 【期間の定めのない契約】 例えば, アマゾン ウェブ サービス(AWS)の利用規約"AWS Customer Agreement"(原文英語)(以下「AWS契約条項」)7.1の標題は「契約期間」ではあるものの, 「本契約の期間は, 契約発効日に開始し, 第7条に従って解除されるまで有効に存続する」と規定されていて, 利用者はいつでも, Amazon側(AWS)は30日前までの予告によりいつでも, 本契約を任意解約することができることとされています。このような契約も実質的には期間の定めのない契約ということができます。 [4] 【期間の定めのない契約の解消】 期間の定めのない継続的取引契約の解消について, 最近では, 原則として解約自体は認めつつ, 契約相手方の保護については, 一定の予告期間を置くこと, 損害賠償を認めること等で調整する, という考え方が判例上も有力になっている。例えば, 東京地裁平成22 年7 月30 日判決・判時2118号45 頁(ワイン輸入販売代理店解約事件判決)。(参考)中島康平「18年にわたって継続した販売代理店契約の解消が問題となった事例」 (9.Mar.12) 弁護士法人苗村法律事務所, 深町周輔「期間の定めのない継続的取引を解約するには一定の予告期間か損失補償が必要であり, それを欠いた解約は債務不履行を構成し, 損害賠償責任を負うとした事案」 2011年09月01日 フォーサイト総合法律事務所 [5]  

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【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては, 自己責任の下, 必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。 (*) このシリーズでは, 読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし, そのような疑問・質問がありましたら, 以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが, 筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 
 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際取引法学会会員, IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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