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Q&Aで学ぶ契約書作成・審査の基礎 第2回 – 契約のスタイル

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  今回は, 契約書のスタイルやそれに用いる用語などに関し解説します。なお, 本Q&Aは, 全く新任の法務担当者(法学部以外の出身者を含む)も読者として想定しているので, 基本的なことから解説していきます。
 

【目  次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1: 「契約」・「契約書」とは何ですか?

Q2: 「覚書」と契約書は違いますか?

Q3: 法律上契約書の内容・方式はどのようなものでも自由ですか?

Q4: 国内の契約書に実務上慣習的なスタイルはありますか?

Q5: 契約書の名称に実務上慣習的な決まりはありますか?

Q6: 前文の書き方に実務上慣習的な決まりはありますか?

 
 

Q1: 「契約」・「契約書」とは何ですか?

A1: 「契約」とは, ①当事者間に(法的な)権利義務その他法律関係を生じさせる②合意であり, 「契約」はその合意成立を証明するために作成される書面です。

【解 説】

【契 約】 法律上「契約」の直接的な定義はありませんが, 上記の通り, 「契約」とは①当事者間に(法的な)権利義務その他法律関係を生じさせる②合意であると言うことができます。 ①「当事者間に(法的な)権利義務その他法律関係を生じさせる」:例えば, 恋人の間のデートの約束や友人間の飲み会の約束などではなく, その権利義務等について最終的には裁判を通じた実現を国に求めることができることを意味します(実現方法には強制執行の他損害賠償等を含む) ②「(当事者間の)合意」:民法第522条第1項には, 「契約は, 契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する」と規定されています。すなわち, 「契約」は, 申込と承諾(相互同時でもよい), 言い換えれば, 当事者間の合意により成立します。 【契約 「契約書」は契約の成立を証明するために作成される書面です。 但し, 民法第522条第2項に「契約の成立には, 法令に特別の定めがある場合を除き, 書面の作成その他の方式を具備することを要しない」(契約方式の自由)と規定されている通り, 契約成立に必ずしも「契約書」という書面は必要ではありません。しかし, 企業が他の企業との間で行う取引または消費者との間で行う重要な取引では, 契約成立・内容の証拠等として, 注文書(申込書)と注文承諾書(申込承諾書)によるもの(これも両方で一種の契約書と言える)を含め, 通常契約書が作成されます(前回Q1参照)。  

Q2: 「覚書」と契約書は違いますか?

A2: 法的な違いはありません

【解 説】

広辞苑では「覚書」の意味として「忘れないように書いておく文書, メモ」が挙げられています。しかし, 企業実務においては, 「覚書」が企業間の合意書面の名称に用いられる場合が少なからずあります。このような「覚書」は, 一般的には以下のような書面の名称として用いられることが多いと言えます。

【「覚書」の名称が使われる書面の例】

「契約書」よりも比較的簡単な(短い)合意書面「...変更覚書」等, 元の契約書を変更・修正する合意書面 ③正式な契約書を交わす前の暫定的合意事項を当事者間で確認するための書面 しかし, 「契約書」も「覚書」もその法的性格・法的効力は, 名称で決まるわけではありません「覚書」であっても, 単なる各当事者の意向・希望等ではなく, 具体的な権利義務等の内容・発生要件が記載されており確定可能である限り, その法的性格・法的効力は「契約書」と同じです。  

Q3: 法律上契約書の内容・方式はどのようなものでも自由ですか?

A3: 契約書の内容・方式は原則として自由です。

【解 説】

(1)契約内容の自由 民法第522条第1項に「契約の当事者は, 法令の制限内において, 契約の内容を自由に決定することができる」と規定されている通りです。ここで, 契約内容自由の例外である「法令の制限」の例としては以下のようなものがあります①公序良俗違反:民法第90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は, 無効とする」。(例)違法行為を約束する契約 ②強行法規違反:「強行法規」とは, 抽象的には, 公の秩序に関するルールで, 当事者の合意により変更することが許されていないものをいいますが, より具体的には, 各法律によりその内容が強制されるルールを意味します。強行規定に反する契約や条項は無効となります。()利息制限法違反, 労働基準法違反, 独占禁止法違反 これに対し, 法律上の規定(ルール)があっても, それを当事者の合意により変更することが認められているものは「任意規定」と呼ばれます。 企業の契約に関係する民法の規定(ルール)等は原則として任意規定であり, 契約で自由に変更できます。 (例)売買目的物の担保責任期間の起算点を民法566条の「買主がその不適合を知った時」から目的物引渡し(または受入検査合格)の時に変更する。 (2) 契約方式の自由 民法第522条第2項に「契約の成立には, 法令に特別の定めがある場合を除き, 書面の作成その他の方式を具備することを要しない」と規定されている通りです。 従って, 契約は口頭でも成立し得るし, また, 書面(紙)によらず, 電子署名・電子契約によっても構いません。但し, 以下の例のような「法令に特別の定めがある場合」を除きます。

【契約の方式の自由の例外の例】

保証契約(466)書面または電磁的記録による保証意思の表示が効力要件。従って口頭契約は不可。 ②その他(現時点でなお)書面化が義務付けられ, または, 電子化に相手の承諾等が必要な契約:脚注[1]の資料参照。  

Q4: 国内の契約書に実務上慣習的なスタイルはありますか?

A4: 国内で日本企業同士で取り交わされる契約書(国内契約)に, 例えば英文契約書でよく使われる特別なスタイル[2]はありませんただ, 一般的には以下のような構成が多いと言えます。

【契約書の一般的構成】

①契約書名 ②前文(契約書名の直後の部分) ③本文(具体的条項部分) ④契約書末尾(末尾文言・署名欄) ⑤別紙(但し, 契約書本文で引用されている場合)  

Q5: 契約書の名称に実務上慣習的な決まりはありますか?

A5: 特にありません但し, 単に「契約書」としただけでは何の契約か分からないので, 契約書管理の観点からは, 他の契約書と区別がし易く, また, 後から検索がし易い, ある程度内容が把握し易い契約書名が望ましいと言えます。

【解 説】

【契約書の名称例】「秘密保持契約」, 「(○○製品)売買契約」, 「取引基本契約」, 「業務委託契約」, 「ソフトウェア開発契約」  - 「...契約」の後に「書」を付けて「...契約」としても構いません。 【「...契約書」以外の名称」】「(○○○○契約)変更覚書」, 「(○○○○に関する)覚書」, 「(○○○○に関する)合意書」等の名称もよく使われます。 【契約番号・識別記号】更に契約書の管理上必要であれば, 適宜, 契約番号・識別記号を付けても構いません。 【自社標準契約書】また, 自社の各標準契約書(自社ひな型契約書)には, 自社標準契約書であることを識別するための番号を付けることもあります。 【契約作成者の立場を示す契約書名の例】例えば, 自社の標準契約には, 「...販売契約」, 「...購入契約」のように, 同じ売買契約であっても自社の立場を示すような契約書名が付けられることが多いと言えます。  

Q6: 前文の書き方に実務上慣習的な決まりはありますか?

A4: 特に決まりはありませんが, 一般的には, 最低限, 以下の例のように当事者名(+その契約のテーマ)および契約締結意思を表示します。
 

売買契約書

 

①○○株式会社(以下「甲」という)および株式会社○○○○(以下「乙」という)は, ②甲から乙に対する○○○○製品の販売に関し本契約を締結する。

 

【解 説】

①当事者の名称:当事者を間違いなく特定するため, 正式名称(商業登記上の名称)を記載。当然ながら「㈱」等の略記の使用は不可。特に相手方の正式名称を間違えると失礼ですしみっともないのでよく事前によく確認した上で記載しましょう。 【契約本文中の略称】 「甲」, 「乙」はどのような契約でも使えるので実務上最も多く使用されています。自社を「甲」とするのか, 相手方を「乙」とするのか, 決まりはありませんが, 自社が契約書のファーストドラフトを作成する場合で相手方が顧客であるときは, 相手方を立てて意識的に「甲」とすることがあります(反対に自社が顧客側なら自社を「甲」とすることも多い)。 一方, 「売主」/「買主」, 「委託者」/「受託者」などのように, 各当事者の取引上の立場を示す略称を使うこともあります。「甲」, 「乙」では本文を読んでいる際, 自社(または相手方)が「甲」なのか「乙」なのか迷う場合があり, また, 契約作成上(特に何度も修正を繰り返している場合), 「甲」, 「乙」を取り違えてしまう可能性がありますが, 立場を示す略称を使えば取り違えミスを防ぎ易いと言えます。 自社の標準契約書の場合, 「甲」/「乙」の代わりに, 自社について自社の略称(例:「ABC株式会社(以下「ABC」という)を使い, 相手方については, 例えば, 「お客様」/「顧客」/「供給者」/「パートナー」などのような略称を用いることがあります。 勿論, 相手方が決まっていれば, 相手方が自ら使っている略称を使用しても構わないでしょう。 ②契約の主題(テーマ): その契約が何(契約のテーマ:何らかの取引, 秘密保持など)に関するものなのか簡潔に記載できる場合は, 「...に関し/ついて」のように記載することが望ましいと言えます。 (他の記載例)「秘密情報の開示に関し」, 「甲から乙への業務の委託に関し」, 「甲から乙への(○○○○用)ソフトウェア開発委託に関し」 一方, 同じ契約に複数の主題・テーマが含まれている場合は, 「...等に関し」としたり, 主題・テーマを記載しない場合があります。   (参考)【英文契約(国際契約)の前文との比較】 一般に以下のように言えます(英文契約のスタイルについてはこちらの記事のQ2を参照)。 (a) 契約当事者の設立準拠法・本社所在地:英文契約は国(または米国内の州など)が異なる当事者間の契約なので当事者の正確な特定のため設立準拠法・本社所在地を契約の最初の部分に記載するのが通例です。これに対し, 国内契約では, 日本企業同士の契約なので設立準拠法(日本法)は記載せず, 本社所在地は通常契約書末尾の記名押印欄に記載します。 (b) 契約発効日:英文契約では, その契約の効力発生日(発効日)を契約の最初の部分に記載するのが通例です。これに対し, 国内契約では, 契約本文中の条項の一つとして契約発効日を(その有効期間とともに)規定する場合や, 特に発効日を記載しない場合(この場合, 一般的には, 契約書末尾の記名押印欄の上に記載される日付が発効日とみなされる)が多いと言えます。 (c) 契約締結に至った事情や動機: 英文契約では, 契約当事者等を記載した後に, これらを記載することが多いと言えます(この部分を“Recital,” “Whereas Clause”等と呼ぶ)。これに対し, 国内契約では, これらの記載をすることは(特に詳細に記載することは)あまり多くないと言えます(記載した場合の効果については脚注[3]参照)。これは, 慣習的な理由の他, Q1の通り, 契約は当事者間に(法的な)権利義務その他法律関係を生じさせる合意なので, そうではない単なる契約締結に至った事情や動機を契約書に記載する必要はないと考えられているからだと思われます。   今回はここまでです。   [4]                  【注】                                    [1] 【(現時点でなお)書面化が義務付けられ, または, 電子化に相手の承諾等が必要な契約】 (参考) 橋詰 「電子化に規制が残る文書と契約類型のまとめリスト」 最終更新日: 2021/04/20, 弁護士ドットコム株式会社 [2] 【英文契約書でよく使われる特別なスタイル】 (参考) 浅井敏雄「Q&Aで学ぶ英文契約の基礎(2)- 英文契約書の形式・スタイル等①[3] 【国内契約で契約締結に至った事情や動機を記載した場合】 以下の例のように, 自社にとり重要な事情や動機が記載されている場合, 自社に有利に働くことはあり得ると思われる。 (例1):前文に「○○○○建設用地/○○○○用の目的物の売買に関し...」と記載されている場合: この場合,仮にその土地または目的物が○○○○に適しない土地または目的物であったときは, それらの用途が契約本文中では明示・保証されていないとしても, 買主が, 「契約の内容に適合しない目的物」として売主の契約不適合責任(民法第566条)を追及できる場合はあり得ると思われる。 (例2)前文に「買主が再販売のため売主の製品を購入することに関し...」等と記載されている場合: 買主の目的物購入目的が再販売であることが契約本文中では明示されていないとしても, 売主の義務(期限までの引渡し)不履行により買主が蒙った損害賠償の範囲として, 買主が再販売できなかったことにより逸失した再販差益が特別損害(民法466(2))として認められる可能性がある(但し契約本文中で逸失利益の賠償が否定されている等の場合を除く)。 (例3) 民法第95条では, 意思表示は, 「表意者が法律行為[ここでは契約締結]の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」に基づくもので, かつ「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」は, 「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは, 取り消すことができる」とされている。従って, 例えば上記(例1)の場合, 買主は, 動機の錯誤を理由として契約の取り消しを主張できる可能性があると思われる。 しかしながら, これらの事項に確実に法的効果を与えたいのであれば, 契約本文の中で, いわゆる「表明および保証」条項(当事者が相手方当事者に対し一定の事実に関する表明や保証を行うもの)等として規定するのが本筋であろう。 また, 前文に, 自社の契約締結事情・動機を記載するのであれば, 相手方も相手方有利に(自社には不利に)働き得る事情・動機の記載を要求する可能性があり, その場合には両刃の剣ということになる。 結論として, (i) 前文には, 不用意に相手方に言質を与えるような内容を記載してはならず, また, (ii) 自らにとり有利な内容でそれに法的効果を与えたいのであれば, 本来, 契約本文の中で規定すべきであるが, (iii)契約交渉上何らかの事情で契約本文に規定できないおそれがある(または目立たせたくない)場合(で両刃の剣になる可能性も小さい場合)に前文への記載を検討するというのが一つのスタンスかと思われる。 [4]  

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【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては, 自己責任の下, 必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。 (*) このシリーズでは, 読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし, そのような疑問・質問がありましたら, 以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが, 筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。

review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)

 

 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄 (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際取引法学会会員, IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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