はじめに
輪転機最大手である東京機械製作所の株を投資会社のアジア開発キャピタルが買い占めており、同投資会社は9月17日、東京機械側が講じた買収防衛策について差止めを求める仮処分を東京地裁に申し立てました。
事案の概要
同投資会社は子会社のアジアインベストメントファンドを通じて今年6月から東京機械製作所の株を買い増しており、9月上旬の時点で全体の約4割を保有しています。これに対し経営陣は買収防衛策として同投資会社を除く既存の株主にのみ新株予約権を与えることとしました。これは同投資会社の保有比率を引き下げる目的であり株主総会の承認を受ける必要がありますが、株主総会が開かれる前に同投資会社は買収防衛策が株主平等の原則に反するとして上記新株予約権の割当ての差止めを申し立てました。
株式公開買い付け(TOB)について
TOBというのは、上場会社の株式を証券市場外で買付条件等を公示しつつ上場会社である対象会社の不特定多数の株主に対して株式の買付けの申込を行うか、または売付けの申込の勧誘を行い、それに応じた株主から買い付けるという形で行う株式の買付けのことです。本件では同投資会社が資本に物を言わせて東京機械製作所に敵対的買収をしかけていると評価できます。そして、TOBにより、市場において急速に大量の株式を買い占める行為への規制が十分でないことがこの事件を通して世の中にも認知されたのではないでしょうか。
TOBの特徴
買収者は証券市場で株式を買い集めることによって買収を行うこともできますが、短期間に大量の株式を必要なだけ取得することは容易ではありません。そこで証券市場を通さずに大株主と直接の取引を行ったり、株式を売却してくれる人を募ったりするという手法が考えられます。これがまさにTOBであり短期間に大量の株式を調達しやすくなります。もっとも、全く規制がないわけではなく、金融商品取引法において公開買付けを行う場合の手続を詳細に規定するとともに、一定の場合には買収者に市場外取引を公開買付けによって行うことを強制しています(同法27条の2以下)。
コメント
企業法務従事者としては、自社株及び取引先の株式の動きに敏感に反応できるようにならなければ、本件のように短期間で大量の株式を買い占められたときに対応が遅れてしまいます。初動対応が遅れてしまうと、手遅れになることもあるため、会社法・金融商品取引法にはある程度精通しておく必要があるでしょう。