はじめに
NTTグループは2022年4月以降、取引先で強制労働などの違法労働がおこなわれていないかを確認する調査を開始すると発表しました。企業の違法労働への対応には厳格に対処することが求められている昨今ですが、製造業以外でもこうした人権調査の取り組みが加速していくことになっています。今回はこうした各企業の人権調査について深堀りしていきます。
事件の概要
NTTグループはこの度人権問題への対応に関する新たなガイドラインを作成しました。このガイドラインをもとに2022年4月以降、取引先で強制労働や人種差別などがおこなわれていないか本格的な調査に乗り出すとのことです。NTTの取引先は通信機器の部品調達などをおこなっている企業が多く、およそ4万社ほどになります。その中からNECや富士通などの大口取引先を中心に毎年40社を選定し、担当者が直接聞き取りをおこない問題がないかをチェックするとしています。もし、調査の結果対応に不備があり、是正を求めても応じない場合には取引を停止する可能性も示唆しています。中国のウイグル自治区などの人権問題を発端として、企業に対しては、人権への尊重に関し、厳しい目が向けられています。その影響もあり、製造業などでは、サプライチェーンで人権問題が起こっていないかの調査に乗り出しています。また、製造業以外の分野でも、NTTの他に携帯大手のソフトバンクが取引先に聞き取り調査を始めるなどしています。
人権調査が活発化している背景
2011年に国連人権理事会の関連決議において、「ビジネスと人権指導原則」が指示されて以降、企業の人権尊重を促すさまざまな政策が講じられるようになりました。日本はこの「ビジネスと人権指導原則」に関する行動計画を策定しています。その中で、企業によるビジネスと人権の取り組みを政府として促進するとともに、人権DD導入を企業に対して期待することを表明しました。何よりもこの人権調査が注目されるようになったのは、中国ウイグル自治区での強制労働の問題の発覚からです。多くの有名企業が強制労働によって製品を製造させ、販売していたことが明るみになり、国によってはそうした企業の製品の不買運動が起こるまでに至りました。
こうした背景もあり、製造業を中心にサプライチェーンにおける人権調査が実施されるようになっています。今後、NTTやソフトバンクを筆頭に、多種多様な業種で人権調査が行われていくと見られます。ダイバーシティーの浸透やグローバルな活動の増加などにより、今後、多くの企業が、様々な文化を持つ多種多様な国・地域の人々と取引を行う流れとなります。こうした取り組みについては、企業としていち早く対応することが求められます。
サプライチェーンにおける人権侵害が企業にもたらすリスク
法務省人権擁護局が発表した
“今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応”では、企業は自社事業に関わる全ての従業員(雇用形態を問わない)の人権を考慮すべきなのはもちろんのこと、サプライチェーン等の取引先従業員、さらには、顧客・消費者・事業活動が行われる地域住民など、自社事業に関わる全ての人(ライツホルダー)の人権を尊重しなければならないとしています。
その上で、こうした人権問題における“リスク”とは、一義的には、企業側ではなく、ライツホルダーが生まれながら当然に持つべき自由や権利の侵害と捉えるべきとしつつ、企業側に最終的に以下のリスクが生じると述べています。
(1)法務リスク
訴訟や行政罰
(2)オペレーションリスク
ストライキや人材流出
(3)レピュテーション(評判)リスク
不買運動やSNSでの炎上など
(4)財務リスク
株価下落や投資の引揚げ(ダイベストメント)など
法務としては、自社において人権調査にどれほどのリソースを割くべきか、上記の各種リスクを丁寧に見積もった上で判断する必要がありそうです。
コメント
今回は人権調査をNTTが開始したことを受け、人権調査の重要性、なぜ人権調査が開始されたのかについて深堀りしました。中国ウイグル自治区の強制労働が問題になったように、今後、人権調査の普及により、同様の問題が次々と明るみになる可能性があります。万が一、自社のサプライチェーン等でこうした強制労働や人権侵害が見つかり、これを見過ごした場合、長期的に見て、そのリスクは決して小さなものには留まりません。企業として、自社の事業に関わる全ての人の人権尊重のため、真摯に問題に向き合うことが重要になりそうです。