はじめに
全国で映画館を運営している「TOHOシネマズ」が映画配給会社に対して圧力をかけた疑いがあるとして、公正取引委員会が独占禁止法違反の疑いで調査していると報道されました。今回はこの問題について掘り下げていきます。
事件の概要
2022年3月4日、関係者への取材でTOHOシネマズが映画配給会社へ圧力をかけた独占禁止法違反の疑いがあるとわかりました。TOHOシネマズは他の興行会社よりも優先して作品を配給すること、他社の映画館へ配給しないことを映画配給会社へ要求し、応じなければ取引停止するなどと示唆したとされています。TOHOシネマズ株式会社の親会社である東宝株式会社は、公正取引委員会からの調査協力要請を受け、当該調査が実施されたこと、今後も調査に全面的に協力することを発表しています。
独占禁止法違反疑いの内容
TOHOシネマズが本当に噂されているような圧力をかけていた場合、独占禁止法で定められている私的独占のほか、拘束条件付き取引に該当する恐れがあるとされています。私的独占とは、事業者が単独あるいは他の事業者と統合するなどして、他の事業者の事業活動を排除したり、支配したりすることによって、市場における競争を実質的に排除することを意味します。拘束条件付き取引とは、不当に相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争相手の取引の機会を減少させる恐れがあることを意味します。また、相手方とその取引相手方との取引、その他相手方の事業活動を不当に拘束する条件を付けて当該相手方と取引することも意味します。TOHOシネマズは今回、この2つの条件に違反する疑いが持たれており、違反をおこなったとされた場合5億円以下の罰金刑に処されることになります。
映画館と配給会社との関係性
映画の配給においては、(1)制作、(2)配給、(3)興行と大きくの3つの過程があります。各過程において、(1)演者のキャスティングや撮影・演出・編集を行う「映画制作会社」、(2)映画製作会社が制作した映画の上映権を買い取り、映画館での上映に向けた宣伝および営業を行う「配給会社」、(3)配給会社と映画館で映画を上映する契約を締結し、上映を行う「興行会社」が介在し、映画の配給に至ります。
今回、問題となっているのは、(2)配給会社と、(3)興行会社であるTOHOシネマズとの取引関係ですが、TOHOシネマズは好立地に映画館を多数有し、設備面も優れているため、配給会社の中では、「TOHOシネマズで映画を上映できること」が一種のブランドとなっているといいます。
ちなみに、映画の興行では、TOHOシネマズをはじめ、東宝・東映・松竹の三大映画会社の系列会社が大きなシェアを占めています。TOHOシネマズは、最大手とされ、運営する映画館は702スクリーン(2022年2月末現在、共同運営を含む)。しかし、コロナの影響を如実に受けており、21年3~11月期は、コロナ前である2019年同期比で、営業収入が4割強も減少しています。
コメント
今回は、TOHOシネマズが映画配給会社へ圧力をかけ独占禁止法違反の疑いが持たれているニュースについて掘り下げました。独占禁止法については消費者の自由に商品を選ぶ権利、経済活動を活発化していくことを目的に制定された法律になります。もし、独占禁止法に違反したとなると5億円以下の罰金が企業に科されるだけではなく、企業のイメージダウンにもつながることになります。普段当たり前に私たちが消費者として自由に商品を選べているのは独占禁止法があるからに他なりません。消費者の立場としても、今回のTOHOシネマズの一件がどのような結果になるのかには今後も注目していきたいポイントです。