はじめに
2022年4月28日、神東塗料は自社が製造・販売する水道管用塗料に関する不適切行為に関して謝罪するとともに、調査報告書を公表しました。今回の調査は社外弁護士を委員長とする特別調査委員会により実施・取りまとめられたものであり、不適切行為に関する概要や発生原因、今後の対応について記載されています。今回は、神東塗料の報告書の内容について詳しく見ていきましょう。
事件の経緯
神東塗料株式会社は、公益社団法人日本水道協会の認証規格(JWWA K139)に関する不適切行為が発覚したことを重大視し、特別調査委員会による調査を行っていました。今回の調査により判明した「JWWA K139 塗料製品」に関する不適切行為は2つに大別されます。
1つは、JWWA K139 とは異なる条件で得られた試験結果により認証を取得した製品が見つかったことです。
2つ目は、2008年のJWWA K139規格改訂の際、原料の報告をせず、指定外原料を使用することになった製品、及び同改訂後に指定外原料を使用して認証登録した製品が見つかったことです。
また、その他不適切行為が認められた製品としては、検査成績書に定められた検査項目の一部に関して品質上問題がないと判断し、必要な検査頻度を落として検査を実施した行為、検査結果が規格の範囲外であったにもかかわらず検査成績書には検査結果とは異なる規格内の数値を記載した行為などがあげられています。
不適切行為が生じた原因
神東塗料によると、不適切行為が発生した主たる原因としては、「顧客に使ってもらえたら良い」という安易な判断に傾斜していたこと、規格及び顧客仕様への適合性について組織的な対応がとられていなかったことをあげています。また、長期間にわたり不適切行為を見つけられなかった原因としては、各部門における業務態勢が内向的かつ閉鎖的でという組織的な問題、品質コンプライアンスに関する啓発不足という問題、内部通報制度が有効に機能していなかった問題があげられています。さらに、こうした状況が続いた背景としては、長期間にわたる経営不振を立て直さなければならないという意識が過剰に働いた結果、相対的にコンプライアンス意識が低下してしまったと分析しています。
再発防止策の実施
今回の件を受けて、神東塗料は再発防止策として6つの施策を実施しています。例えば、「品質コンプライアンス体制の構築」としては、品質保証・品質管理部門のレポートラインの変更や人員の増員及び教育研修、社内規程の見直しなどが掲げられています。また、コンプライアンス・ガバナンス再構築プロジェクトとして、再発防止策の実行を適時適切にモニタリングすることを目的とし、社長や社外コンサルタント・社外役員などから構成される『明日の神東』推進委員会(仮称)を設置する方針です。さらに、今回の事態を受け、代表取締役 社長執行役員、代表取締役 常務執行役員および取締役の報酬月額を20%から50%減額する処分を下しています。
コメント
神東塗料は今回の報告書の最後で、不適切行為によって影響を与えてしまった取引先や水道事業者に対して謝罪しています。また、再発防止に向けた種々の対策を準備していることを強調しながらも、「何よりも大切なのはこれらのシステムや規定のもとで働く人の心」とし、倫理観を社内で醸成していくことを明記しています。原因分析でもあったように、「顧客に使ってもらえたら良いという安易な判断に傾斜していたこと 」や「規格及び顧客仕様への適合性について組織的な対応がとられていなかったこと」など、組織内のひとりひとりの意識が低下していたことも背景として考えられます。法務としては、コンプライアンス違反発生のメカニズムを知る上で、非常に学びになる事例だと思います。
【関連リンク】
神東塗料|当社製の一部製品に係る不適切行為に関する調査報告書公表のお知らせ