はじめに
京成電鉄が株式交換契約によって新京成電鉄を完全子会社化することがわかりました。効力発生日は9月1日とのことです。今回は完全子会社化の手法の一つである株式交換について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、新京成電鉄は京成電鉄のグループ会社として車両の開発や資材の共同購入、バスの共同運行などを実施してきたとされます。両社はそれぞれ独立して上場して事業を運営してきましたが、近年の新型コロナウイルスの影響や少子高齢化などの影響を受けており、経営資源の効率的な活用や機動的な意思決定を図るため完全親子会社化する意向を固めたとのことです。両社は4月28日にすでに株式交換契約を締結しており、今後6月28日の新京成電鉄の定時株主総会での承認決議を経て8月30日で上場廃止となる予定となっております。株式交換の割当比率は1対0.82で、京成電鉄の普通株式約500万株が交付される予定とされます。
株式交換とは
株式交換とは、既存の株式会社同士が完全親子会社関係となるための組織再編行為の一種です。完全子会社となる会社の株式を100%、完全親会社となる会社に移転させ、その対価として完全親会社の株式等を完全子会社の株主に割当てることとなります。株式交換での完全親会社となることができるのは株式会社の他に合同会社も含まれますが、完全子会社となることができるのは株式会社のみです。似た制度として株式移転というものも存在します。こちらは完全親会社となる会社を新設して、完全子会社となる会社の株式を移転させるという制度です。また会社法の令和元年改正によって新設された「株式交付」という制度も存在します。株式交付は株式の100%取得を目指すものではなく、50%超を取得して親子会社関係を目指すというものです。取得方法も特別決議を経て強制的に取得するというものではなく、あくまで子会社となる会社の株主との合意によります。このように様々なグループ化の制度が用意されております。
株式交換の手続き
株式交換を行うには、両会社で株式交換契約を締結し、原則として両会社の株主総会特別決議により承認を受ける必要があります(会社法783条1項、795条1項、309条2項12号)。しかし例外として片方が相手方の特別支配会社(議決権90%以上保有)である場合は承認決議は省略できます(796条1項、略式株式交換)。また親会社側が交付する対価が純資産額の20%以下である場合は親会社側での承認決議を省略できます(796条2項、簡易株式交換)。この場合でも交付する対価が譲渡制限株式である場合や、一定数の株主が反対の意思を通知した場合は原則通り承認決議を要します。株式交換では原則として債権者保護手続は不要ですが、親会社が交付する対価が株式等以外である場合、また子会社側の新株予約権付社債を承継する場合は必要です(799条1項3号)。株券発行会社である場合は株券提供公告が必要となります(219条1項7号)。また合併等と同じように株式交換契約の内容や貸借対照表などの開示も必要です(782条、752条)。そして効力発生日から2週間以内に登記することとなります。
株式交換と登記
株式交換は合併や分割と異なり、株式交換それ自体は登記事項とはなっておりません。そのため株式交換が行われても登記が不要な場合があります。それではどのような場合に登記が必要なのでしょうか。完全親会社側で登記が必要な場合は、対価として株式を新たに発行する場合、または新株予約権を発行する場合です。すでに発行されている自己株式のみを対価として交付する場合は登記は不要となります。完全子会社側で登記が必要となるのは、株式交換に伴って新株予約権が消滅する場合です。この場合完全親会社と子会社の登記は同時に申請することとなります。また両社の本店所在地を管轄する登記所が異なる場合は完全親会社側の管轄登記所を経由して申請することとなります。
コメント
本件京成電鉄と新京成電鉄で行われる株式交換では、新京成電鉄株主に割り当てられる約500万株の株式は全部京成電鉄が保有する自己株式が当てられ、新株発行は行われないとされます。簡易株式交換の要件も満たすとされます。また新形成電鉄は新株予約権および新株予約権付社債を発行していないとされております。そのため京成電鉄側では株主総会での承認決議は不要となり、両社で登記事項は発生しないものと考えられます。今後新京成電鉄の定時総会での承認を経て上場廃止となる見通しです。以上のように相手会社の株主に交付する対価が自社の純資産額の20%以下である場合や、すでに90%以上の株式を保有している場合などでは株主総会の承認決議を省略できるなど、簡便な組織再編が可能な場合もあります。また単に親子会社関係の形成のみを目指す場合はより簡易な株式交付制度も用意されております。それらを踏まえて自社に最も適した手法を選択していくことが重要と言えるでしょう。