はじめに
圧力計や圧力センサなどを手掛ける精密機器メーカー、長野計器では、2021年11月に実施された関東信越国税局による税務調査によって、元社員による不正行為が発覚し、会社は対応に追われています。長野計器は税務調査を受けて社内調査を実施するとともに、2022年1月27日に会社から独立した社外取締役、社外監査役、その補助者で構成された「不祥事に関する社外取締役・社外監査役による調査委員会」を設置し、原因究明を進めています。今回は長野計器の不祥事に関する経緯とその後の対応について詳しくまとめます。
不正行為の概要
不正行為の概要としては、長野計器の元社員Aが、取引先の担当者Bと共謀し、少なくとも2007年3月頃から2021年10月までで、Bが決定権を持つ4事業者から長野計器に対して不正請求を行ったものです。不正請求に関しては、空調機器等のメンテナンス作業等を行ったことを請求書・納品書に記載し請求したものです。Aが請求書・納品書にまっとうな請求金額が記載されているように偽装し、4事業者名義の銀行口座に不正な振込を行わせ、少なくとも長野計器に約2億6800万円の損害をもたらしました。
不正行為の背景
不正行為の原因及び背景としては、①属人的な問題、②制度運用上の問題の2つがあるとされています。①属人的な問題としては、両者の自己制御が効かなくなっており、接待を断らずに不正行為を継続しつづけた本人たちの問題があります。接待のエスカレートに伴い、共同して本件不正行為を継続する「全面的な癒着」の関係が事件を起こしたと言えます。②制度運用上の問題としては、業者の選定方法や口座の開設についての問題、職務権限の代行に関する規定・不明朗な慣行、予算申請、執行及び支払に関する制度上・運用上の問題、不十分な内部監査などがあげられます。
調査委員会について
長野計器は関東信越国税局による税務調査を受け、元社員による不正行為を認識しました。発覚後、同年同月の2021年11月に社内調査を実施するとともに、会社法第370条の「取締役会の決議に替わる書面決議」により、社外役員による調査委員会を設置しています。構成員としては、当社社外取締役を委員長、委員とし、社外役員による調査の補助者として以下の弁護士が選任されています。本調査委員会の設置目的としては、事実関係の調査及び原因究明に関することのほか、損害額の確定及び回収方法に関すること、社員及び関係者の懲戒処分に関すること、再発防止に関することなどがあげられています。
関係者への対応および再発防止策
本件のAおよびBに対しては、刑事告訴を前提に弁護士と相談しているところだということです。 民事上の損害回復については、合理的な範囲で損害回復の手段を講じているとのことであり、長野計器では今後も継続していく方針です。また、再発防止策としては、職務分掌・権限規程の見直し、慣行の見直し及び規定の補充、行動倫理の徹底、予算策定及び執行手続の見直し、作業等役務提供取引の成果確認の徹底、 取引事業者選定方法の見直し、内部監査の抜本的強化、内部通報制度、コンプライアンス教育等に関する取り組みを進める方針です。
コメント
今回の不正行為は10年以上の年月が経過してから発覚したものですが、事件発覚後の長野計器は顧客や株主などへの説明に追われています。長野計器によると、件不正行為による過年度の財務諸表に対する影響については、不正行為は多年度にわたって行われているものの、各事業年度に与える影響は僅少であるとしています。2022年3月期第3四半期においては、法人税の追徴税見込額約8300万円を、法人税、住民税及び事業税に計上済みであり、通期業績と連結業績予想に与える影響は軽微であるとしています。