はじめに
東証スタンダード市場に上場中の不動産会社、株式会社ミライノベートは2022年5月26日、昨年6月に東京地方裁判所に提起していた元代表取締役2名に対する損害賠償等請求訴訟の判決内容を文書で公開しました。同文書によると、ミライノベートの主張を全面的に容認する判決結果が出たとのことです。本記事では、訴訟の背景と判決結果、その判決理由について見ていきましょう。
事件の経緯
2021年6月25日、株式会社ミライノベートは元代表取締役2名(カーティス・フリーズ氏、田端正人氏)に対して損害賠償等を請求する訴訟を東京地方裁判所に提起しました。訴訟の背景としては、被告らが同社の取締役在任中に行なった行為の調査を行った結果、両名において、損害賠償等の請求を行うべき、善管注意義務違反・忠実義務違反の事実が判明したためとされています。ちなみに、請求金額は、カーティス・フリーズ氏に520,974,308円及び4,545,699米国ドル、田端正人氏に192,411,483円でした。
具体的な善管注意義務違反・忠実義務違反の内容
(1)2013年8月1日を効力発生日として同社と株式会社プロスペクトの間で行われた、ミライノベート社を完全親会社とする株式交換の際、プロスペクトと利害関係を強く有するカーティス・フリーズ氏が、プロスペクトの株主に有利な評価手法を用いて株式交換の交換比率を決定するよう取締役に指示をした事実。
(2)カーティス・フリーズ氏が、業務上不要であるにもかかわらず、同社の代表取締役として米国ハワイ州所在のイオラニスクールへ30万米国ドルの寄附を行った事実。
(3)田端正人氏が、同社の代表取締役でありながら、取締役会決議を経ることなく、太陽光発電事業を営む宮城川崎町メガソーラー合同会社へ2019年5月23日に出資金3億円、同月28日に立替金2億円、同年10月24日に業務委託費立替金2063万7820円を支出し、2020年3月10日に同立替金2億円と2063万円の合計2億2063万円を出資金へと振り替えた事実。
こうした事実が、善管注意義務違反・忠実義務違反にあたるとして、訴訟を提起するに至ったとのことです。
田端氏との和解成立
本訴訟は訴訟提起後に、フリーズ氏に対する訴訟手続と田端氏に対する訴訟手続が分離されて進行していました。田端氏に対する請求については、2022年3月14日付でミライノベート社社と田端氏の間で和解が成立しています。和解の結果として、
①被告である田端氏は、原告ミライノベートに対し、2022年3月31日限り、本件解決金として7,000,000円を支払うこと
②被告は原告に対して被告が有する別紙目録記載の原告会社発行の新株予約権を放棄すること
③原告及び被告との間には、本和解条項に定めるもののほか何らの債権債務のないことを相互に確認すること
が言い渡されました。
フリーズ氏に対する訴訟の判決内容
フリーズ氏は第1回口頭弁論期日までに答弁書を提出しておらず、同期日にも出席しなかったことから、東京地方裁判所で同社の請求を全て認容する判決が言い渡されています。判決の内容としては、
①被告(カーティス・フリーズ)は、原告であるミライノベートに対し、5億2097万4308円及び454万5699米ドル並びにこれらに対する2022年3月16日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払うこと
②訴訟費用は被告の負担とすること
③この判決は仮に執行することができること
となっています。
終わりに
今回、被告となったフリーズ氏は、宣教師として来日後、日興証券(当時)で金融マンとしてのキャリアを開始。その後にアセットマネジメント会社をハワイで起業し、2002年には、日本において、外国籍企業として初めてJーREIT(上場不動産投資信託)を取り扱うライセンスを取得していました。その後、ファンドとしてミライノベート社への投資を行っていましたが、2010年より、同社の代表取締役社長に就任していました。
ミライノベートは公表した文書の中で、本判決に対する被告であるフリーズ氏の対応は明確ではないものの、フリーズ氏より控訴された場合には、引続き適切に対応することを明らかにしています。