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任天堂がCSR情報を更新して導入、パートナーシップ制度とは

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はじめに

 ゲーム大手「任天堂」(京都市)はCSR情報を更新し、同性パートナーがいる社員も婚姻と同様に扱う「パートナーシップ制度」導入した旨発表しました。同時にアウティングの禁止も明記したとのことです。今回は近年自治体や企業で導入が進むパートナーシップ制度について見ていきます。
 

事案の概要

 任天堂がHPで公表しているCSR情報によりますと、社員一人ひとりが力を発揮できる環境づくりを進めるとし、多様性のある職場の実現、仕事と生活の調和、人材の育成・開発、職場の安全衛生の確保に務めるとされます。そんな中で2021年3月から同性のパートナーがいる社員や事実婚関係にある異性カップルについても社内制度として婚姻と同様に扱う「パートナーシップ制度」導入したとのことです。またさらに以前から行動規範として定めている、あらゆる差別や差別につながる言動の禁止に加え、アウティング行為の禁止も盛り込み、今後社内制度の整備や研修の実施などを通じて様々な個性を持つ社員一人ひとりが活躍できる環境づくりを続けていくとしております。
 

パートナーシップ制度とは

 パートナーシップ制度とは、同性同士や事実婚など、日本の現行法上は「婚姻」と認められない場合に、自治体や企業がこれらのカップルをパートナーとして認定する制度です。正式に婚姻が成立しますと、民法上は婚姻費用の分担や日常家事に関する連帯債務の発生、相続権の発生など様々な法的効果が生じます。しかし一部例外はあるものの、内縁などの事実婚等では原則としてこれらの効果は発生しません。近年諸外国ではLGBTや事実婚などを制度として保護するためにパートナーシップ制度が導入されてきております。日本でもこのような動きを受けて、各自治体等が積極的にパートナーシップの導入に動き出しております。以下パートナーシップ制度の具体的な特徴やメリットを見ていきます。
 

パートナーシップ制度のメリット

 現在日本で導入が進んでいるパートナーシップ制度は上記のように法的な婚姻ができないカップルのための制度と言えます。しかしやはりこれによって婚姻と同じような法的効果を発生させることはまだできないのが現状です。それではパートナーシップ制度に意味は無いのでしょうか。このパートナーシップ制度によって認定を受けますと、法的な効果以外の面で異性間の夫婦と同じように扱うことが可能です。たとえば公営住宅への入居、生命保険の受取人、クレジットカードの作成、携帯電話での家族割など自治体や企業が行う多種多様なサービスを夫婦と同じように受けることができるということです。企業の場合は社宅への入居や各種夫婦向けの手当・福利厚生、結婚祝金、出産祝金などの慶弔見舞などに関して、これまで正式な婚姻を行った夫婦にしか適用できなかった制度を、それ以外のカップルに適用することが可能となり、よりLGBTへの配慮を進めることができます。
 

アウティングとは

 アウティングとは、誰かの性的指向や性自認(いわゆるSOGI)について、本人の許可なく第三者に暴露することを言います。「○○は同性愛者らしい」「○○は性同一性障害だから配慮しよう」といった行為です。このようなSOGIに関して本人が自ら公表する、あるいは許可している場合は問題ありませんが、立場的に知っている者や特に打ち明けられた者が許可なく漏らすことは本人にとって非常に重大な問題と言えます。以前にも取り上げた一橋大学法科大学院事件でもゲイであることを級友に暴露され、うつ病やパニック症となり自殺に至った例が挙げられます。この事件では遺族が暴露した同級生や大学などを相手取って損害賠償を求めました。東京高裁は自殺について大学側の安全配慮義務違反は認めませんでしたが、アウティング行為については、本人の人格権やプライバシー権を著しく侵害する許されない行為として不法行為に該当すると認めました(東京高裁令和2年11月25日)。
 

コメント

 本件で任天堂は2021年3月からパートナーシップ制度を導入し、CSR情報にもその旨記載されております。これにより同性や事実婚に対しても法律婚と同様に扱うとしております。このように近年LGBTに配慮した制度を社内で導入し、働きやすい環境や福利厚生の充実に務める動きが見られます。家電大手パナソニックも2016年からパートナーシップに近い制度を導入しており、通信大手KDDIも同様の制度と、さらにトランスジェンダーの社員を対象として希望によりワーキングネームを使用できる制度を導入しているとされます。上でも述べたように現状日本の民法等は異性同士の婚姻以外は法的に保護しておらず、今後も法改正は容易ではないと思われます。しかし国際社会では今後もLGBTへの配慮が進んでいくことが予想されます。社内コンプライアンスやガバナンスの啓発だけでなく、これらの制度についても積極的に検討していくことが重要と言えるでしょう。
 

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