はじめに
サンリオは2日、東京国税局から約13億円の追徴課税処分を受けたと発表しました。香港と台湾にある子会社の所得も親会社と合算すべきとのことです。今回はいわゆるタックスヘイブン対策税制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、サンリオは2021年3月期までの過去5年間について、香港と台湾にある同社子会社の所得約42億円を親会社と合算して申告すべきと東京国税局に判断されたとされます。日本での納税の不当回避を防止する、いわゆるタックスヘイブン対策税制が適用され、約13億円の追徴課税処分を受けたとのことです。同社は現地でしか行えない事業で、適用除外基準に該当するとし、租税回避目的ではないと反論しております。なお同社は17にも同様の理由で約11億円の追徴課税処分を受け、現在取り消しを求めて係争中とされます。
タックスヘイブンによる租税回避
タックスヘイブン(Tax Haven)とは租税回避地を意味します。パナマやドバイ、シンガポール、モナコ、香港など低税率または税金がかからない国や地域のことです。一般的には法人税率20%以下の地域を言うとされます。これらの低租税地域に子会社を設立し、なんらかの業務を行わせ、その対価を支払い、それを親会社の経費として扱うことによって所得税や法人税を抑えるといったやり方が租税回避行為の一例として挙げられます。それ以外にも、これらの地域に置いた子会社を経由して他の国の企業等と取引し、それによって得られた所得を子会社の所得とすることで、日本の親会社の課税を免れるといった場合もあります。しかしこのような行為は日本の税務当局にとっては非常に問題と言えます。そこで諸外国同様に日本でもタックスヘイブン対策税制が取られております。
外国子会社合算税制
日本でも1978年にタックスヘイブン対策税制が導入されました。現在では外国子会社合算税制と呼ばれております。外国子会社合算税制は、外国子会社を利用した租税回避を防止するため、一定の要件に該当する外国子会社の所得を日本の親会社の所得とみなして合算し、日本で課税するというものです。これは簡単に言うと、日本の親会社の租税回避行為に該当するか否かを、外国子会社が真に実態を持った経済活動を行っているかによって判断し、租税回避が該当するなら合算するという制度です。その判断基準として日本では4つの経済活動基準が設けられております(租税特別措置法66条の6第2項3号)。これらの基準のうち1つでも満たさない場合で、当該国での負担税率が20%未満であれば合算課税が行われることとなります(同5項2号)。
経済活動基準
外国子会社合算税制での経済活動基準は、(1)事業基準、(2)実態基準、(3)管理支配基準、(4)非関連者および所在地国基準の4つとされます。事業基準は、その事業内容が株式保有や工業所有権等の提供、航空機のリース等でないこととされます。実態基準は、当該国の本店所在地に主たる事務所や店舗、工場などの施設を保有していることです。これらの固定施設を持たない場合は経済の実態があるとは言えないということです。管理支配基準は、当該国に所在する会社が現地で事業の管理・運営を行っているということです。具体的には株主総会の開催や会計帳簿の作成などです。そして非関連者および所在地国基準は、金融業や貿易業の場合、非関連会社と50%超の取引があること、それ以外の小売業等の場合は主に現地で事業を行っていることです。つまり日本の親会社とだけこれらの事業を行っている場合は事業実態が有るとは言えないということです。
コメント
本件でサンリオの香港・台湾の子会社所得約42億円がいわゆるタックスヘブン対策税制の適用を受けるとして日本で合算課税されると判断され、約13億円の追徴課税を受けました。香港での法人税は16.5%とされ、また台湾は2019年度までは19%(現在は20%)とされます。経済活動基準のいずれかに該当しない場合は合算課税の対象となります。詳細は不明ですが、現地子会社の事業が主に現地で行われているものとは言えないと判断されたのではないかと考えられます。
以上のように現在日本では税率が低い、いわゆる租税回避地に子会社を設立し、その子会社を経由したり、その子会社と取引を行うことによって、所得を圧縮するといった場合には、原則として子会社の所得も合算される扱いとなります。海外に現地法人を設立する場合、特に税率が低い国である場合はこれらの基準を念頭に、租税回避とならないよう留意していくことが重要と言えるでしょう。