はじめに
リコーは富士通の子会社であるPFUを9月1日に株式取得によって買収すると発表しました。公取委の審査により当初予定されていた7月から延期されたとのことです。今回は独禁法の株式取得規制について見ていきます。
事案の概要
リコーの発表によりますと、現在OAメーカーからの脱却とデジタルサービス会社への変革に取り組んでいるリコーは、業務用スキャナで世界シェア1位のPFUの株式取得により、ITマネジメントサービスやドキュメントワークフローの変革を支援するデジタルサービスの展開を目指すとしております。取得予定株式数は約300万株で議決権割合80%を予定しており、買収額は約840億円とのことです。当初は株式取得実行日を7月1日としておりましたが、公取委の企業結合審査に時間を要することから、公取委から排除措置命令を行わない旨の通知を受領し、準備が整い次第実行するとしておりましたが、9月1日に実行されることとなりました。
独禁法の企業結合規制
独禁法では、事業支配力が過度に集中することとなる場合や、市場において競争を実質的に制限することとなる場合には合併等の企業結合を禁止しております。具体的には株式取得・所有(10条)、役員兼任(13条)、会社以外の者による株式取得・所有(14条)、合併(15条)、共同新設分割・吸収分割(15条の2)、共同株式移転(15条の3)、事業譲り受け(16条)等となっております。競争を実質的に制限することとなる場合だけでなく、不公正な取引方法を手段として他の競争関係にある会社の役員や従業員を兼任したり強制すること、また同様に合併を求めることなども禁止されております。以下株式取得について具体的に見ていきます。
株式取得規制
独禁法10条によりますと、一定の取引分野における競争を実質的に制限するような株式保有等の企業結合が禁止されております(1項)。具体的には、国内売上高の合計額が200億円を超える会社および企業結合集団が、国内売上高の合計額が50億円を超える会社およびその子会社を買収し、議決権保有割合が新たに20%または50%を超えることとなる場合には公取委に事前に届け出る必要があります(2項)。届け出を行った会社は届け出受理の日から30日を経過するまでは株式取得を行ってはならないとされております(同8項)。この期間は公取委により短縮されることもあります。なおこれら売上高による要件は株式取得だけでなく、合併や分割、株式移転等でも同様です。
企業結合審査の流れ
公取委の企業結合ガイドラインによりますと、企業結合審査は(1)企業結合審査対象の認定、(2)一定の取引分野の画定、(3)競争の実質的制限となるかの認定、(4)問題解消措置の検討という流れとなっております。まず合併や株式取得、役員兼任などが企業結合規制の対象となるかを判断します。対象となる場合は一定の取引分野を画定します。一定の取引分野とはいわゆる市場のことであり、商品・役務の範囲や取引地域などを需要者から見た代替性の観点から画定されます。競争の実質的制限となる場合とは、市場においてある程度自由に価格、品質、数量、その他諸般の条件を左右し、市場を支配することができる状態を言うとされます(東京高裁昭和28年12月7日)。そして競争の実質的制限となる場合、どのように解消するかが検討されます。具体的には事業譲渡や輸入・参入を促進する措置などが考えられます。
コメント
本件でリコーは、紙文書をデジタル化する業務用スキャナで世界シェア1位、また産業用コンピューターボードの国内シェア1位のPFUの株式を80%取得することから独禁法上の企業結合審査が必要となりました。上記のように公取委に届け出が必要となる合併や株式取得を行う場合、届け出日から最低30日間は手続きが停止します。なお独禁法上問題が認められた場合は報告書提出や意見聴取手続きを経て、場合によっては排除措置命令となります。市場におけるシェアが大きい競争会社を買収する場合は特に注意が必要となります。近年国際情勢や国内情勢の不安から業績が悪化し、組織再編の需要が上がっております。合併等を検討する際には会社法や金商法上の手続きだけでなく、独禁法上の規制に留意して予定を見通していくことが重要と言えるでしょう。