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ファスト映画で5億円賠償命令/著作権侵害の損害額について

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はじめに

 ファスト映画をユーチューブに投稿していたとして、映画会社大手など計13社が損害賠償を求めていた訴訟で17日、東京地裁は5億円の賠償命令を出しました。投稿による広告収入を大幅に上回るとのことです。今回は著作権侵害の損害額について見ていきます。
 

事案の概要

 報道などによりますと、2020年6月~7月、被告となっている3人は映画「アイアムアヒーロー」などの映画を編集して「ファスト映画」として著作権者に無断で動画投稿サイト「ユーチューブ」に投稿していたとされます。3人は昨年11月、著作権法違反の罪に問われ、懲役2年、執行猶予4年、罰金200万円などの判決を仙台地裁で受けております。これを受け大手映画会社など計13社は3人に対し5億円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。原告側はユーチューブでの正規配信料から手数料等を差し引いた1本あたりの額を考慮し、被告らが投稿した64本の映画の計約1千万回の再生数から約20億円の損害と算出したとのことです。この内一部である5億円を請求しておりました。
 

著作権とその侵害

 著作権は著作物を作成した時点で発生し、様々な権利が内包された複合的な財産権と言えます。具体的には著作物を印刷、複写、録画するなどの複製権、公に上演する上演権、公に上映する上映権、放送したり受信装置を使って公に伝達する公衆送信権、映画の複製物を頒布する頒布権、翻訳、変形、編曲などの翻訳権などが含まれております(著作権法21条~28条)。これらの著作権を侵害した場合、10年以下の懲役、1000万円以下の罰金またはこれらの併科となっております(119条1項)。また法人の場合は3億円以下の罰金とされます(124条1項)。そして民事上でも侵害行為の差し止め請求や損害賠償請求、不当利得返還請求がなされる場合があります(112条、民法709条、703条、704条)。
 

ファスト映画の問題点

 ファスト映画とは、映画を短く編集し、字幕などをつけて10分から15分程度にまとめた動画を言います。通常1時間半や2時間程度の長さがある映画のストーリーの流れや結末を簡潔に理解することができ、時間のない人や中身だけを簡単に把握したいという人に人気となっているとされます。このようなファスト映画を著作権者に無断で作成し、動画配信サイトに投稿することは違法とはならないでしょうか。ファスト映画は元々の映画を短く編集して切り貼りし、字幕やナレーションなどを加えていることから、著作権侵害に当たらない「引用」に該当しないかが問題となります。32条1項によりますと、「引用」は公正な慣行に合致するものであり、報道、批判、研究その他引用の目的上正当な範囲内で行われるものとされております。そして引用はどこからどこまでが引用かが明確になっており、あくまで自己のものが「主」で引用部分が「従」の関係でなくてはなりません。そのためほぼ映画を短くしただけのファスト映画が引用に該当するとは言いにくいと考えられます。
 

著作権侵害の損害額

 通常損害賠償請求をする際には、原告側が損害の発生とその額を立証する必要があります。しかし著作権などの知的財産権の侵害に関する損害額は算定することが困難と言えます。そこで著作権法では損害額算定のルールが規定されております(114条1項)。それによりますと、損害額は侵害者の譲渡等の数量に権利者の単位あたりの利益から一定事情による金額を控除した額を乗じたものとなっております。たとえば1回の視聴料が400円の映画が違法に投稿され、100万回再生された場合、400円×100万で4億円の損害となります。実際には有料であれば100万回も視聴されないといった事情がある場合、4億円満額請求はできないことになります。また114条2項では、侵害者が侵害行為により利益を得ている場合は、その利益の額が損害額と推定されます。これはあくまで推定なので、それよりも多い、または少ないと立証された場合は覆ることとなります。
 

コメント

 本件で被告3人がユーチューブに投稿していたファスト映画は64本で合計再生回数は1000万回以上に上ります。それによる広告収入は約700万円程度とされます。しかし原告側は上記のとおり損害額は再生1回あたり200円とし、合計で約20億円と算定しました。東京地裁も原告側の算定方法を妥当と認め、広告収入で得た利益の700万円を大幅に上回る5億円の損害賠償を命じました。近年このようなファスト映画は爆発的に増加しており、コンテンツ海外流通促進機構の調べでは昨年6月時点で計2100本、被害額は956億円に上ると推計されております。それを受け著作権侵害のペナルティーの大きさを示した判決と言えます。以上のように近年インターネット上での著作物の侵害行為が溢れております。それに伴い罰則の強化や諸外国と連携した収益化の断絶が図られております。これらの動きを注視して自社のIP保護の強化を図っていくことが重要と言えるでしょう。
 

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