はじめに
防衛省は、13日、自衛官のパワハラ行為で初めて降格処分を下しました。
降格処分となったのは、部下にパワハラ行為を行った海上自衛隊の1等海佐と、十分な調査を行わなかった上司の海将補の2人です。
パワハラを行ったとされる1等海佐の男性は、海上自衛隊幹部学校に所属していて、2019年9月から2021年2月まで、同じ職場の複数の部下に対し「馬鹿」「制裁してやる」などの人格を否定する発言を繰り返し、精神的な苦痛を与えたとして2階級の降格処分となったということです。
また、男性海将補については、1等海佐のパワハラの事実を認識できるだけの端緒があったのに、これを無視して別の部下に不十分な調査をさせ、パワハラがなかったとする調査結果を報告させたとして、1階級の降格処分となっています。
初のパワハラでの降格処分に、海上自衛隊のトップは「防衛省としてハラスメントの根絶に向けた様々な取り組みを行っている。組織としてのガバナンスの強化に努めていく」と会見で陳謝しました。
自衛官のハラスメント問題
今、防衛省では今回のパワハラ以外にも、ハラスメント問題で世間から大きな注目を受けています。
きっかけは元陸上自衛官の女性が実名でセクハラ被害を訴えたことで、入隊後から退職するまでの約2年間、先輩隊員から抱きつかれるなどといったセクハラ被害を日常的に受けていたということです。また、この女性に下半身を押しつけたとして隊員3人が強制わいせつ容疑で書類送検されています。
防衛省では全隊員を対象に被害実態を調べる異例の特別防衛監察を開始し、自衛官や本省の事務官、予備自衛官などに対し、パワハラやセクハラ、マタハラの被害実態について申告するように求めています。今後、個々の実態調査、把握を行い、その際の上長の対応に問題がなかったなどを検証していくということです。
企業のハラスメント問題
厚生労働省によりますと、企業からのハラスメント相談の内容で多かったのは、顧客等からの著しい迷惑行為や、セクハラ、パワハラで、他にも介護休業などのハラスメントや妊娠・出産・育児休業ハラスメント行為、就活セクハラもあったということです。
また、ハラスメントの行為者と被害者の関係では、パワハラ、セクハラなどのいずれにおいても、「上司(役員以外)から部下へ」のケースが最も報告されています。こうしたハラスメントへの対策や対応として次が挙げられます。
(1)相談窓口の設置
ハラスメントを受けた後、「何もしなかった」という被害者は多くいます。誰にどう相談したらいいかわからないケースが多いため、相談窓口の設置を周知することが迅速な対応や従業員へのケアに繋がります。
(2)社内規則などでハラスメントの内容、ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発
ハラスメントを行うときは無意識に悪気をなくやっている場合もあります。これまで通用していたことが通用しないと具体的に説明することが大切です。
またハラスメントを認定する際に、「ハラスメントかどうかの判断が難しい」と線引きについて悩む企業も多く、対応の遅れにもなりかねません。
特にマタハラや介護ハラスメントなどにおいては、上司が制度等の利用や利用自体を阻害する言動を行ったり、それまでの業務から外し雑務を任せるといった行為が多いため、社内でしっかり認識をすり合わせていく必要があります。
(3)行為者に厳正に対処する旨の方針・対処の内容の就業規則等への規定
万が一行為があり、ハラスメントが認定された後のペナルティについてしっかり説明することでハラスメント防止にも繋がります。
(4)ハラスメントへの理解を深めるセミナーなどの実施
上司だけでなく、若手社員にも、どういった行為がハラスメント行為に該当するのか、その行為をしてはいけない理由や予防法の理解を促進することで、当事者はもとより、周囲でハラスメントを見聞きした人のハラスメントへの感度を高めることができます。
厚労省 令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書
コメント
昨今、世間一般でハラスメントへの意識が高まっており、かつては“許容範囲内の叱責・指導”とされていた行為がパワハラと認識されるケースなども増えています。
残念ながら、このことは、法務パーソンにおいても例外ではなく、法務・コンプライアンス部門内でのハラスメント事例を耳にすることも少なくありません。
近年、一人ひとりの人格権を尊重するという立場から、「受けた者が不快と感じる行為」を広義のハラスメントと捉える流れがあります。たとえ悪気のない行為であっても他人を不快にしてしまうことは十分にあり得るため、その時代その時代で、具体的にどのような行為がハラスメントに該当するのか、アンテナを張り続けることが重要になります。