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QAで学ぶ契約書作成・審査の基礎第49回 技術ライセンス契約:総論

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UniLaw 企業法務研究所 代表 浅井敏雄

今回から, 日本及び外国の特許権等を対象とする, 日本企業間の技術ライセンス契約に関し解説します。 今回は, その第1回目として, 技術ライセンスに関する総論的なことを解説します。
 

【目 次】

(各箇所をクリックすると該当箇所にジャンプします)

Q1:技術ライセンス契約の対象技術

Q2:技術ライセンスの位置づけ

Q3:技術ライセンスの目的

Q4:技術ライセンスの種類・態様

Q5:技術ライセンスと独占禁止法 

 

Q1技術ライセンス契約の対象技術

A1: 本稿で解説する技術ライセンス契約(以下「本契約」ともいう)の対象技術の例を以下に挙げます。 (1) 特許を受けている発明 特許を受けている発明は, 既に特許登録がなされ特許が成立している発明です。我が国特許法(2条2項)上は「特許発明」といいます。 (2) 特許付与前の発明 特許出願されたものの特許付与前の発明もライセンスの対象となり得ます。このような発明は, それが公開される前は後記(4)のノウハウとしてライセンスの対象となり得ます。それが出願公開(例えば我が国特許法64条)された後は, 出願公開後で特許前にそれを実施した第三者に対し実施料相当額を特許後に請求できる仮保護の権利を与える国が多いと言えます。従って, その場合のライセンスの実質は仮保護の権利を行使しないということです。なお, 出願後特許前の発明のライセンスは, 我が国特許法上は, 仮通常実施権(特許法34条の3)又は仮専用実施権(特許法34条の2)の許諾ということになります。 (3) 考案, 意匠等 「発明」は, 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいいます(我が国特許法2条1項)が, 我が国の法律上保護される技術的創作としては, 他に, 実用新案法に基づく実用新案登録の対象である「考案」(同法2条1項・2項)があります。又, 技術的創作が, 意匠法に基づく意匠登録の対象である「意匠」(同法2条1項・3項)として保護される場合もあります。 (4) ノウハウ 特許出願されたものの特許付与前の発明や, そもそも特許出願せず営業秘密等として保有されている技術もノウハウとしてライセンスの対象となる場合があります。 (5) コンピュータ・ソフトウェア, データベース 特許発明等を実施するために必要なコンピュータ・ソフトウェアやデータベースも著作権等の対象としてライセンスの対象となる場合があります。 (6) 外国における権利 日本企業間の技術ライセンス契約であっても, 対象となる技術は, 必ずしも日本の特許(発明)等に限りません。むしろ, 最近では, 日本だけでなく外国においても事業化を行うことが多く, ライセンサーが日本の特許に対応する外国の特許等を得ていれば, ライセンシーとしては, その外国の特許等についてもライセンスを得ておくべきです。

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Q2:技術ライセンスの位置づけ

A2:技術ライセンスは, 技術の移転又は獲得の一つの手段です。他の手段としては次のようなものがあり, その技術移転・獲得の目的に照らし, いずれの手段が最適かを判断しなければなりません。 (1) 技術譲渡(Assignment) 特許権その他の技術に対する権利そのものを譲渡します。技術の獲得を望む企業にとっては最も確実な方法ですが, ライセンスに比し対価が高額となります。 (2) 共同研究(Cooperative Research) 他社と協力して目的とする技術を開発します。相互に補完関係にある企業と協力して技術開発を行う場合や, 開発が高リスク又は多額の費用を要する為分担して開発する場合等に行われます。 (3) 買収・合併(Merger and Acquisition: M&A) 必要な技術を有する他社を買収・合併します。目的とする技術を, 技術者や販売網等ともに獲得できます。多額の投資が必要であり被買収企業の運営上のリスクもありますが, 未開拓の分野に早期かつ効率的に進出できます。 (4) 合弁会社(Joint Venture)設立 上記(2)の共同研究のメリットを究極にまで高めた形態ともいえます。目的の技術を使用した製品の販売も合弁会社に担わせることも多いと言えます。 (5) 技術支援又は技術コンサルティング 通常, 技術譲渡や技術ライセンスに付随することが多く, 目的の技術の習得を技術情報提供, 技術者派遣, コンサルティング等を受けることにより実現します。 (6) 技術開発委託契約 ソフトウェアの開発委託等, 他社に技術開発を委託します。その開発成果に係る知的財産の譲渡又はライセンスにより技術を移転します。

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Q3:技術ライセンスの目的

A3:ライセンサー, ライセンシー, それぞれの立場から以下のような目的が考えられます。 (1) ライセンサーとしての目的

(a) 自社特許権等の経済的活用

(b) 対象技術の開発・権利化に要した費用の早期回収

(c) 特許製品の製造委託に伴う特許ライセンス

(d) 合弁会社への技術ライセンス

(2) ライセンシーとしての目的

(a) 自社開発が困難な技術の獲得

(b) 開発に伴うリスクの回避又は開発の為の投資及び時間の節約

(c) 他社権利の侵害の回避又は侵害紛争を解決する手段としてのライセンス

- 例えば, 自社が開発・販売しようとする製品が他社特許を侵害するおそれがある場合, 当該特許を回避できるよう製品仕様を変更する選択肢もあります。しかし, 回避が困難な場合又は特許権者が合理的な条件で応じる場合はライセンスを受けることも選択肢の一つとなります。又, 製品販売開始後他社から特許侵害であると主張されこれを解決する和解の一環としてライセンスを受ける場合があります。この場合の和解の内容は, 過去の侵害に対する損害賠償金の支払い及び将来の特許発明のライセンスです。

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Q4:技術ライセンスの種類・態様

A4:Q3(技術ライセンスの目的)に掲げたもの他, 次のような種類・態様があります。 (1) 分野を限定したライセンス 特許権者は, 自己が特許発明を利用している以外の他の分野でも当該発明が利用できる場合, その他の分野に限定して第三者にライセンスし, 自己の実施分野での競争を回避しつつ, 収益を得ることができます。ライセンスする分野は, 特許発明の用途別等にすることができます。 (2) グラントバック・ライセンス グラントバック・ライセンスとは, 一般的に, ライセンサーがライセンスした技術の改良技術その他関連技術をライセンシーが開発した場合に, ライセンシーからライセンサーに対し, 当該関連技術の実施権をライセンス(グラントバック)させることを意味します。グラントバック・ライセンスについては以下のような問題を検討しなければなりません。 (a) グラントバックの対象となる技術の範囲 グラントバックの対象となる技術の範囲を単に「関連技術」としたのでは, その外延が広すぎかつ不明確であり, 将来の紛争の原因になりかねません。「改良技術」とする場合でも, その定義を如何にするかが問題となります。一つの方法は, 我が国特許法72条の利用発明と同様の概念を用いることです。すなわち, 同条は, 特許権者等は, 自己の特許発明が他人の先願特許発明等を利用するものであるときは, 業としてその特許発明の実施をすることができないと, 定めていますが, 改良発明の定義を, ライセンサーの技術に対しそのような関係にある技術とするのです(具体的な条項例については後の回で解説)。 (b) グラントバックの対象となる権利の種類 グラントバックの対象となる権利を独占的な権利(例:我が国特許法77条の専用実施権)とするか, 非独占的な権利(例:我が国特許法78条の通常実施権)とするかの問題があります。 (c) サブライセンス ライセンシーにとり, サブライセンス権が与えられるか否かは重要です。特に, 各国に子会社を置いて製品の製造・販売等を行っているライセンシーにとっては, これら子会社に対するサブライセンス権は不可欠な場合が多いと言えます。

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Q5:技術ライセンスと独占禁止法

A5:公正取引委員会は知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針(2016年(平成28年)1月21日改正)(以下「指針」)を公表しています。以下においては, 技術ライセンス契約において独占禁止法との関係でしばしば問題となるグラントバック及び特許有効性不争義務に関し, 指針における同委員会の考え方を概観します。 (1) グラントバック 指針によれば, ライセンサーがライセンシーに対し, ライセンシーが開発した改良技術について, ライセンサー又はライセンサーの指定する事業者にその権利を帰属させる義務, 又はライセンサーに独占的ライセンスを付与する義務を課す行為は, 技術市場又は製品市場におけるライセンサーの地位を強化し, 又, ライセンシーに改良技術を利用させないことによりライセンシーの研究開発意欲を損なうものであり, 又, 通常, このような制限を課す合理的理由があるとは認められないので, 原則として不公正な取引方法に該当します(一般指定[1]第12項)(指針第4-5-(8)-ア)。 一方, ライセンサーがライセンシーに対し, ライセンシーによる改良技術についてライセンサーに非独占的ライセンスを付与する義務を課す行為は, ライセンシーが自ら開発した改良技術を自由に利用できる場合, ライセンシーの事業活動を拘束する程度は小さく, ライセンシーの研究開発意欲を損なうおそれがあるとは認められないので, 原則として不公正な取引方法に該当しないとされています(指針第4-5-(9)-ア)。 (2) 特許有効性不争義務 指針によれば, ライセンサーがライセンシーに対して, ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務を課す行為は, 円滑な技術取引を通じ競争の促進に資する面もあり, かつ, 直接的には競争を減殺するおそれは小さいとされます。 しかし, 無効にされるべき権利が存続し, 当該権利に係る技術の利用が制限されることから, 公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もあります(一般指定第12項)。 一方, ライセンシーが権利の有効性を争った場合ライセンサーがライセンス契約を解除できる旨を定めることは, 原則として不公正な取引方法に該当しません(以上指針第4-4-(7))。

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  今回はここまでです。  

「QAで学ぶ契約書作成/審査の基礎」シリーズ:過去の回

  [2]   [1] 【一般指定】 不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号) [2] 

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【免責条項】

本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害などについて当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては,自己責任の下,必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。

 
 

【筆者プロフィール】

浅井 敏雄  (あさい としお)

企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事

1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系(コンピュータ関連)・日本(データ関連)・仏系(ブランド関連)の三社で歴任。元弁理士(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事, 国際商事研究学会会員, 国際取引法学会会員, IAPP  (International Association of Privacy Professionals) 会員, CIPP/E  (Certified Information Privacy Professional/Europe)

【発表論文・書籍一覧】

https://www.theunilaw2.com/

 

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