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今年は過去最多の90社、株主総会における株主提案について

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はじめに

 今月下旬に定時株主総会の開催を予定している上場企業で、株主提案を受けた企業が90社にのぼることがわかりました。過去最多とのことです。今回は株主提案とその対応について見直していきます。
 

事案の概要

 共同通信の報道によりますと、6月下旬に定時総会を予定している3月期決算の上場企業で、株主提案を受けた企業が90社、総議案数は348にのぼるとされます(大和総研集計)。90社のうち、いわゆる「物言う株主」(アクティビスト)からの提案は44社とされ、提案内容は増配や役員選任、女性取締役の割合などが多いとのことです。なお昨年の定時株主総会での株主提案を受けた企業数は76社であったとされ、近年会社経営に積極的に関わろうとする株主が増加傾向にあるとされております。
 

株主提案とは

 株主提案には3つの種類があり、「議題提案権」「議案提案権」「議案の要領通知請求権」に別れます(会社法303条~305条)。議題とは「取締役選任の件」や「定款変更の件」といった会議の目的そのものを言います。議案は「A氏を取締役として選任する」といった議題に対する具体的な決議内容を言います。そして議案の要領通知請求権とは、自己の議案の要領を株主総会の招集通知に記載するよう求める権利を言います(305条)。株主自ら株主総会を招集しなくても、定時株主総会や取締役会の招集した株主総会を利用して、株主が能動的に会社経営に参画することを可能とし、株主総会の活性化を図ることを目的としております。
 

株主提案の要件

 株主提案のうち、議題提案権と議案の要領通知請求権については一定の要件が設けられております。株主がこれらの提案をするには、議決権の1%または300個保有する必要があります(公開会社は6ヶ月前から)。取締役会非設置会社の場合はこのような制限は無く、1株の保有で可能です。そして株主提案には期間制限もあり、株主総会の8週間前までに会社に請求する必要があります。なお取締役会非設置会社の場合、議題提案についてはこの期間制限もありません。またこれらに対し、議案の提案に関してはこれらの制限はありません。議案の提案は株主総会の当日にそれぞれの議題についての議案を提案するというもので、参加している株主の誰もに認められる権利だからです。
 

株主提案への対応

 株主提案がなされた場合、まず上記の保有要件や期間要件を満たしているかを確認する必要があります。さらに提案の内容が適法かを確認します。(1)提案した議題や議案について、提案者自身が議決権を行使できない場合(303条1項)、(2)提案した内容が株主総会の決議事項に該当しない場合、(3)同一の議案について過去に総株主の10%以上の賛成を得られず否決してから3年を経過していない場合、(4)提案した議案が法令または定款に違反する場合には株主提案を拒否することができます。また令和元年改正で10個を超える議案の提案については会社は拒否することが可能となっております。これらの適法要件を満たしている場合は招集通知への記載や総会での上程などの対応が必要です。適法な株主提案を無視した場合は100万円以下の過料が課されることがあります(976条18号の2)。また招集通知への記載を命じる仮処分命令申し立てがなされる場合もあります。なお議題提案を無視してもそもそも決議自体がなされませんが、議案提案や要領通知請求を無視した場合は株主総会決議取消の対象となる場合があります(831条1項1号)。
 

コメント

 今年の6月は3月期決算の上場企業の約2300社が定時株主総会の開催を予定しているとされ、ピークの29日には約600社の開催が集中すると言われております。また今年は去年に続いて過去最多となる90社の企業で株主提案がなされております。近年投資ファンドなどを中心に物言う株主・アクティビストの活動が活発化しており、株主提案や株主総会招集請求といった会社法上の株主権行使が目立っております。総会屋の活動の減少とは反比例して今後もアクティビストの会社経営への関与の増加が予想されます。上記のように株主提案やその他の株主権の行使にはそれぞれ要件が規定されており、また適法な行使を無視した場合は仮処分や訴訟の提起、また罰則なども置かれております。今一度これらの規定を確認し、対応を準備しておくことが重要と言えるでしょう。
 

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