はじめに
盛り土を原因とした大規模な土石流発生により、多くの人命が奪われた2021年7月の熱海での災害。この災害を受け、東京都では不適正な盛り土を人工衛星を使って監視するプロジェクトを開始しています。同プロジェクトの概要を解説すると共に、盛土規制法の罰則についても整理していきます。人工衛星で把握
不適正な盛り土は土石流を引き起こす危険がある一方、行政の職員が広い山林を巡回して、ひそかに造られる盛り土を発見するのは容易ではありません。そこで東京都では、人工衛星を活用し、盛り土を宇宙から監視することによって災害を未然に防ごうと対策を進めています。 東京都都市整備局の発表によりますと、具体的には、人工衛星が撮影した地表面の画像データを年に複数回購入し、同じ地点の新旧の画像をAIなどで比較して無許可で造成された盛り土や、森林伐採といった造成の兆候がないかを監視するということです。そのうえで、不審な造成を発見した際には、職員が現地確認を行い、ドローンで上空からの調査を実施するとしています。 調査により違法であるとされた場合には、是正勧告などを行うほか、悪質性などに応じて刑事罰を科す見通しです。 東京都では、すでに2022年から一部地域でトライアル事業を開始しており、来年度には都内全域に対象を広げて運用を本格化させる方針です。東京都以外にも、川崎市でも同様のシステムを確立できるよう取り組みが為されるなど、対策が各地で行われています。 防災対策DX(都市整備局)熱海での土石流災害
このように盛り土の対策が行われる背景には、一昨年に発生した熱海での土石流災害があります。この時は、土石流が港の方まで押し寄せ、災害関連死含む28名の命が奪われたほか、ライフラインにも大きな影響を及ぼしました。 この災害で注目されたのが、土石流の起点付近に不安定な状態で残っていた、およそ1万9000立方メートルの盛り土です。土石流が大規模になった一因とされており、盛り土の崩落を防げなかった責任の所在について遺族や被災者が2つの訴訟を提起し、現在も審理中です。
1.造成地の新旧所有者に対する損害賠償請求訴訟 2021年9月に、造成地の当時の所有者や現所有者などに対して遺族・被災者らが提起。「災害は、崩落の起点にあった盛り土が不適切に造成され、安全対策工事が行われないまま放置されたことで引き起こされた」として、約58億円の損害賠償を求めています。 2.市と県に対する損害賠償請求訴訟 2022年9月に、熱海市と静岡県に対し遺族・被災者らが提起。「熱海市は崩落する危険性を認識していたのに適切な指導を行わず、静岡県も市に是正を求めなかった」として、約64億円の損害賠償を求めています。 |