日立造船社員、長期出張中の自殺に労災認定
タイに長期出張中だった日立造船の男性社員が2021年4月に死亡したのは、不慣れな業務や上司の叱責などにより精神疾患を発症したことによる自殺であったとして、3月4日、大阪南労働基準監督署が労災認定していたことがわかりました。
遺族の訴えで労災認定
日立造船株式会社で働いていた上田さん(当時27歳)は、2021年4月に長期出張先のタイで高さ約30メートルのプラント建屋から転落し亡くなりました。
上田さんは2018年4月に日立造船に入社してから、主に電気設備業務を担当していましたが、ごみ焼却発電プラント建設プロジェクトのため、2021年1月から5月ごろまでの予定でタイの拠点に長期出張していました。
上田さんにとって初めての海外勤務だったそうですが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で事前の現地研修がなかったことも影響し、不慣れな業務に上田さんは仕事でミスをしてしまい、その際に上司から厳しく叱責されることが何度もあったと報道されています。
上田さんが亡くなる直前、上田さんの出張期間の7月までの延長が決定していたということです。
会社は、上田さんの死亡後、遺族からの要望で第三者委員会を設置。2023年11月に調査報告書をまとめています。
調査報告書では、「時間外労働の急激な増加で上田さんに疲労が蓄積し心理的負担が積み重なっていた」事実を認定した一方で、死因については、タイ警察が死因を特定しなかったことを理由に、「自殺か事故死かは認定できない」としていました。
遺族は、上田さんが亡くなる前の1ヶ月の時間外労働が149時間に上っていたことを受け、2023年4月に労災を申請。
遺族側代理人弁護士によると、大阪南労働基準監督署は、調査の結果、「海外での不慣れな仕事を担当していたことや、上司からの厳しい指導などが心理的に大きな負担となり精神疾患を発症し、自殺をした」と認定したということです。
労災保険の適用の有無は、海外出張と海外派遣とで異なる
社員が海外出張先で事件・事故などに遭った場合、労災認定され、労災保険の給付の対象となることがあります。労災保険の適用の有無は、海外での勤務期間の長さではなく、社員が「海外出張」だったのか「海外派遣」だったのかで異なることになるため、注意が必要です。
■海外出張中の事故等
「海外出張」とは、国内の事業場の指揮命令に従って業務に従事しているケースを指します。例えば、日本の本社の指示で海外へ商談に行く場合などです。
労災保険法の適用には、法律の一般原則として属地主義がとられているため、国内の事業からの「出張」の場合には労災保険の対象となります。
そのため、海外出張の場合、国内での災害と同様に労災保険給付を受けられることになります。
■海外派遣中の事故等
「海外派遣」とは、海外の事業場に所属して、その事業場の指揮命令に従って業務を行うケースなどを指します。例えば、現地法人の責任者として海外駐在している場合などです。この場合は、海外派遣者として労災保険に特別加入をしていなければ労災保険給付を受けられないことになります。
海外出張中の事故等で労災認定されるケースとは?
海外出張中の事故で、労災が認められるケースと認められないケースがあります。
労災が認められ、給付を受けるためには、「労働者のケガや病気などが、会社の業務によって引き起こされたか否か」、すなわち、①業務遂行性(事業主の支配下で傷病・疾病・死亡等が発生したか)と②業務起因性(傷病・疾病・死亡等が会社の業務に起因して発生した)の2つの要件を満たすか否かがポイントとなります。
そのため、持病で倒れて亡くなったケースや、退勤後に事故に遭ったケースなどでは労災認定がされない可能性があります。
コメント
上田さんの母は、「会社には職場環境の変化にもっと配慮してほしかった」と声をあげています。不慣れな海外生活、不慣れな業務、不慣れな人間関係。そこに仕事上のミスによる叱責や過重労働などが重なり、上田さんの心身に大きな負担がかかっていたことは想像に難くありません。
新入社員や転職者、異動者が新たな職場で働き始めるこの時期、精神的・体力的な負担が急増している社員も少なくないと考えられます。
会社として、職場環境の変化に直面している社員にどのような配慮をすべきか。一度、真剣に考えてみる必要があります。