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アマゾン労組の配達員が失職、不当労働行為について

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はじめに

 インターネット通販大手「アマゾンジャパン」の商品を長崎市などで運んでいた配達員の労働組合の組合員らが8日を最後に仕事を失っていたことがわかりました。2次下請業者から業務委託契約を終了されたとのことです。今回は不当労働行為と労働者性について見直していきます。
 

事案の概要

 毎日新聞の報道によりますと、アマゾン配達員の労働組合「東京ユニオン・アマゾン配達員組合長崎支部」の男性配達員は2021年11月からアマゾンジャパンの2次下請業者(埼玉県川口市)と業務委託契約を締結して3次下請の個人事業主として働いていたとされます。男性らは昨年9月に荷物が増加した際の加算金が約束通り支払われなかったとして業務を半日ボイコット、12月には1次下請業者が2次下請業者に24年4月8日をもって契約を終了すると通告したとのことです。同労組は1次下請業者に団体交渉を申し入れたものの「法的に応じる義務はない」として拒否、アマゾンジャパン本社にも就業機会の確保を要請したが回答はなかったとされます。
 

不当労働行為とは

 労働組合法7条では使用者の労働組合や労働者に対する次のような行為を「不当労働行為」として禁止しております。まず(1)組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い、(2)正当な理由のない団体交渉の拒否、(3)労働組合の運営等に対する支配介入および経費援助、そして(4)労働委員会の申立等を理由とする不利益取扱いが挙げられます。労働組合に加入したり結成したことなどを理由に解雇や減給、または労組に加入しないことを雇用条件とすること。形式的に団体交渉に応じても、実質的には誠実な交渉を行わないこと。労働組合結成に対する阻止・妨害工作、労働組合の日常の運営や争議行為に対する干渉、労働組合の運営経費に経理上の援助を与えること。労働委員会の調査・審問等において、労働者が証拠を提出したり、発言したことを理由とする不利益取扱いなどが典型例と言えます。
 

不当労働行為と救済制度

 労働組合法には現状、不当労働行為に対する直接的な罰則は存在しません。しかし不当労働行為を受けた労働者や組合員は公的な機関である労働委員会に救済申立を行うことができます。労働委員会は申立に基づいて審査を行い、不当労働行為の事実があると認められる場合には、使用者に対して復職、賃金差額支払い、組合運営への介入の禁止といった救済命令を出すことになります。この救済命令に違反した場合には罰則が課されれることがあります。労働委員会の救済命令に不服がある場合、会社側は裁判所に取消訴訟を提起することができます。しかしこの取消訴訟を提起せずに救済命令が確定した後、この救済命令に違反した場合は50万円以下の過料が課されることになります。取消訴訟を提起し、裁判所が救済命令を取り消さずに確定し、それに違反した場合は1年以下の禁錮もしくは100万円以下の罰金とされております。
 

労働組合法の労働者性

 それではそもそも労働組合法が適用される「労働者」とはどのような人を言うのでしょうか。労働組合法3条では、「労働者」とは「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者をいう」としております。そしてこの労働者性の判断基準として、(1)事業組織への組入、(2)契約内容の一方的・定型的決定、(3)報酬の労務対価性を基本的要素とし、(4)依頼に応ずべき関係、(5)指揮監督下の労務提供や一定の時間的場所的拘束の存在を補充的判断要素として考慮すると言われております。一方で顕著な事業者性は逆に労働者性を否定する方向で作用する判断要素とされます。たとえば受託した業務を他人に代行させることが可能な場合などは経済従属性が弱く労働者性が薄くなると言われております。
 

コメント

 本件でアマゾン配達員が加入する労組は同社1次下請業者に団体交渉を申し入れたものの、「法的に応じる義務はない」として拒否されたとのことです。事業者側は配達員を個人事業主と認識しており、労働組合法の労働者には該当しないと考えているものと思われます。同種の事案としてUberEatsの配達員が加入する労組が同社に団体交渉を申し入れたものの拒否した例があります。この例では2022年に東京都労働委員会が労働者性を認めております。配達員が配達リクエストを拒否しずらい状況であったことや会社が定める業務手順や配達経路に従わざるを得ない状況であったことなどが考慮されたと言われております。本件でも第三者の代行の可否や委託拒否の可能性などが争点になるのではないかと考えられます。以上のように近年で増加している個人事業主も委託の状況などでは労働者と認められております。団体交渉の申し入れを受けた際には慎重に判断して対応することが重要と言えるでしょう。
 

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