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偽ウルトラマン画像を提供した生成AI事業者、著作権侵害で賠償命令 ―中国・広州

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はじめに

ウルトラマンにそっくりな画像を生成する生成AIサービスを提供していた事業者が、著作権侵害を理由に、中国の裁判所から損害賠償などを命じられました。 近年、中国では、急増するインターネット関連の知財紛争について、「インターネット法院」という新しい司法の場で審理が進められています。
 

生成AIでウルトラマン酷似画像作成

報道などによりますと、原告は、ウルトラマンシリーズの著作権を持つ株式会社円谷プロダクションから中国でのライセンスを受けた代理店だといいます。原告は、2023年、中国のとある事業者(以下「事業者A」)が提供する生成AIサービスで生成された画像が、中国でも人気となっている「ウルトラマンティガ」に良く似ていることを発見しました。 そこで原告は、「事業者Aが原告の許可を得ることなく、AIに著作物を学習させて、ウルトラマンティガにそっくりな画像を生成した」として、事業者Aに対し、サービスの提供停止や損害賠償を求める訴訟を2024年1月に提起しました。 広州インターネット法院(裁判所)は2月8日、事業者Aの著作権侵害を認定し、画像の生成防止と、1万元(日本円にして約20万円)の損害賠償の支払いを命じました。 生成AIで作られる画像などをめぐっては、世界中で不安視されており、特にクリエイターの間で著作権侵害を危惧する声が上がっています。 そうした中で下された今回の判決。生成AIをめぐる議論に一定の方向性を示しそうです。
 

インターネット法院とは?

今回判決を下したインターネット法院は、“インターネット裁判所”とも訳される裁判所で、2017年8月に杭州インターネット法院が初めて設立されて以来、北京や広州にも設立されています。 ■設立の背景 中国のデジタル経済の急速な発展を見せており、それに伴い電子商取引の数も急増しました。一方で、それに比例するかのように、著作権侵害をはじめとするインターネット関連のトラブルが爆発的に増加しており、裁判所の負担増が大きな課題となっていました。そこで、これらの紛争等を効率よく処理するべく、インターネット法院が設立されました。 インターネット法院では、 ・通信販売契約での紛争 ・ネットでの融資契約のトラブル ・ネット上で初めて発表された著作物の著作権などの紛争 ・ネット上で他人の人格権、財産権などの民事的権益の侵害 ・検察機関が提起したインターネット公益訴訟事件 などの民事・行政案件について、一審として審理を行っています。 インターネット法院の主な特徴は以下です。 (1)訴訟のオンライン化 インターネット法院では、電子訴訟情報プラットフォームが構築されており、起訴・受理・送達・調停から、証拠交換・開廷前の準備・法廷審理・判決などをオンラインで行えます。 そのため、インターネット環境さえあれば、出廷せずに裁判に参加することが可能となります。 また、このプラットフォーム上では、事件に関連する電子データの送信もできるため、事件情報の閲覧・当事者の身分確認・迅速な証拠確定などが可能となります。実際、証拠調べや認証の効率が良くなったとの声も聞かれるといいます。 (2)IT化 調停や法廷審理などでは、音声認識技術を活用した電子記録が作成され、当事者はすぐに記録の確認や照合、電子署名などができます。 これらの記録は電子ファイルで保存され、上訴する際にはそのままデータを引き継ぐも可能で、訴訟のペーパーレス化に繋がっているといいます。 このほかにも、北京インターネット法院では、「AI 仮想裁判官」と呼ばれる、実際の裁判官の画像から作られたデジタルな裁判官が、原告らの質問に一部答えるなど、AIの活用も進んでいます。 中国インターネット法院の現状と知財案件動向調査(特許庁)
 

日本における生成AIと著作権の考え方

文化審議会の小委員会は、2月29日、生成AIと著作権侵害に関する考え方を取りまとめました。 その中で、AIを利用して画像等を生成した場合でも、著作権侵害の有無は、通常の場合と同様に、類似性と依拠性により判断されるとしています。 ■類似性 一般的に、“類似性”の有無は、他人の著作物の「表現上の本質的な特徴」を直接感得できるか否かで判断されますが、この点はAIを利用して画像等を生成する場合も同様で、他人の著作物との間で「創作的表現」が共通していることが求められるといいます。 その一方で、作風や画風などの表現でないアイデアや、単なる事実の記載やありふれた表現などの創作性がない部分が共通するにとどまる場合は、類似性は否定されるとのことです。 ■依拠性 一般的に、依拠性の有無については、既存の著作物に接してそれを自己の作品の中に用いているか否かで判断されますが、AIを利用して画像等を生成した場合の線引きについては、以下のように整理されるといいます。 (1)AI利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合 →依拠性が認められる。既存の著作物を認識していたことの立証については、AI利用者が既存著作物へのアクセス可能性があったことや、生成物に既存著作物との高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があるとの推認を得ることができると考えられる。 (2)AI利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI学習用データに当該著作物が含まれる場合 →客観的に既存の著作物へのアクセスがあったと認められるため、原則、依拠性があったと推認される。 (3)AI利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI学習用データに当該著作物が含まれない場合 →類似した生成物が生成されたのは、偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められないと考えられる。 AIと著作権に関する考え方について_令和6年3月15日(文化審議会著作権分科会法制度小委員会)
 

コメント

急増する生成AIによる著作権侵害。文化庁は、現行著作権法の解釈を明確にすることで一定の歯止めをかけつつ、AI開発の進展と著作権者の権利保護の両立を狙う考えです。また、その一環として、生成AIの開発や利用に伴う著作権侵害事例の収集に乗り出し、被害実例の把握と、対策検討に注力するとしています。 急激な進化を見せる生成AI技術に対し、世界各国で、ルール作りが追い付かない状況が続いています。 業務の中で生成AIを利用する企業も増えてきていますが、思わぬ形で著作権を侵害しないよう、今後新たに作られる利用ルールや行政等の解釈指針を注視していく必要があります。
 

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