Quantcast
Channel: 企業法務ナビ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3016

公取委が代金不当減額疑いの「橋本総業」に立入検査/物流特殊指定とは

$
0
0

はじめに

 公正取引委員会は11日、運送会社への支払代金を不当に減額したなどとして、住宅設備販売会社「橋本総業」に独占禁止法違反の疑いで立入検査に入りました。10年以上にわたり行われていた疑いがあるとのことです。今回は公取委告示である物流特殊指定について見ていきます。
 

事案の概要

 報道などによりますと、橋本総業は仕入れた住宅設備機器などを販売店に卸す際、運送事業者に搬送や積み込み作業を委託していたところ、時間外料金を支払わず、当初合意した発注額を事後的に「割戻金」などの名目で減額していた疑いがあるとされます。また同社は複数の運送会社との間でも10年以上にわたって同様の取引を行っていたとみられております。同社は2015年4月設立で、資本金は1億100万円、23年3月期の売上は約1352億円とのことです。公正取引委員会は、物流業界における優越的地位の濫用を規制する「物流特殊指定」に基づき立入検査を行いました。同規定による立入検査はこれが初とされます。
 

物流特殊指定とは

 物流特殊指定は正式名称を「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」とし、独禁法2条9項6号の規定に基づいて公取委が告示として指定したものを言います。荷主と物流事業者との取引における優越的地位の濫用を効果的に規制することを目的としております。適用対象は下請法と同様に荷主と物流事業者の資本金の額で決まることとなります。具体的には(1)荷主の資本金が3億円超の場合、物流事業者が3億円以下、(2)荷主の資本金が1000万円超3億円以下の場合、物流事業者の資本金が1000万円以下、(3)取引上の地位が優越している荷主と劣っている物流事業者となります。(3)はやや抽象的ですが、両者の取引依存度、荷主の市場における地位、取引先変更の可能性等を総合的に考慮されます。なお物流事業者がさらに下請会社に再委託した場合は本規定ではなく下請法が適用されることとなります。
 

特定荷主の禁止行為

(1)代金の支払遅延  物流特殊指定が適用される場合の特定荷主の禁止行為としてはまず、代金の支払遅延があります(1項1号)。特定荷主は、物流事業者に責任がある場合を除き、代金(運賃や保管料)をあらかじめ定めた支払期日までに支払う必要があります。 (2)代金の減額  特定荷主は物流事業者に責任がある場合を除き、あらかじめ約定した代金の額を支払う必要があり、一方的に減額することは禁止されております(1項2号)。「協賛金」や「割戻金」といった名目で差し引く行為も同様です。 (3)買いたたき  特定荷主は同種または類似の内容の運送または保管に対し、通常支払われる対価に比べて著しく低い代金の額を不当に定めることが禁止されます(1項3号)。これは自社基準で一方的に低い価格に引き下げるだけでなく、価格はそのままでも配送回数を増加させる場合も含まれます。 (4)物・役務の購入利用強制  特定荷主は正当な理由がある場合を除き、物流事業者に対して自己の指定する物またはサービスを強制して購入・利用させることが禁止されます(1項4号)。自社の発注担当者を通じて取引先が販売する季節商品を購入させたり、自社が指定するリース会社のトラックをリースさせるといった場合が挙げられます。 (5)割引困難な手形の交付  特定荷主は支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付することにより、物流事業者の利益を不当に害してはいけないとされます(1項5号)。割引困難か否かについては業界の商慣習等を勘案して考慮されることとなりますが、たとえば期間が異常に長い手形などが挙げられます。 (6)不当な経済上の利益の提供要請  特定荷主は自己のために、お金やサービス、その他の経済上の利益の提供をさせ、物流事業者の利益を不当に害することが禁止されます(1項6号)。協賛金の支払要求や、契約外の荷物の整理を要求することなどが挙げられます。 (7)不当な給付内容の変更・やり直し  特定荷主は運送または保険を変更させたり、やり直させることによって物流事業者の利益を不当に害してはいけないとされます(1項7号)。運送委託を直前になって取り消し、費用を支払わなかったり、一度運送したのに工事の延期などで運送をやり直させるといった場合が挙げられます。 (8)要求拒否に対する報復措置  特定荷主は、減額要求や自己の指定する物の購入の要求等を拒否したことを理由に物流事業者に対して取引量を減らしたり、取引を停止するといったことが禁止されます(1項8号)。 (9)情報提供に対する報復措置  特定荷主は上記の禁止行為をしていた場合に、物流事業者が公取委に対してその事実を知らせ、または知らせようとしたことを理由に取引量を減らしたり、取引を停止、またはその他の不利益な取り扱いをすることが禁止されます(2項)。
 

コメント

 本件で橋本総業は、運送業者との間で当初合意した発注額を事後的に減額した疑いがあるとされます。また積み込み作業などを運転手にさせて、超過勤務が生じたのに追加の支払はしなかったとのことです。これらは不当な減額や利益提供要請に該当する可能性がある行為と言えます。同社の親会社は公取委の検査に全面的に協力するとしております。以上のように物流業者と取引をする場合は一定の要件のもと、物流特殊指定が適用されます。その内容はほぼ下請法と同様となっておりますが、独禁法の優越的地位の濫用を効果的に適用するための規定となっております。本規定や下請法など、自社よりも立場の弱い取引先と取引する際には、これらの規定に違反していないか、今一度確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。
 

Viewing all articles
Browse latest Browse all 3016

Trending Articles