はじめに
軍事転用の恐れがある水上バイクなどをロシアに不正輸出したとして、大阪府警は、7月10日、ロシア国籍の貿易会社社長を外為法違反(無承認輸出)の疑いで逮捕しました。
ウクライナへの軍事侵攻が始まった2022年以降、水上バイクなどは経済制裁の一環でロシアへの輸出が禁止されています。今回、ロシアへの不正輸出容疑では初の逮捕事例となりました。
ウクライナ侵攻後に売上増加か
逮捕されたのは、大阪府の貿易会社、アストレード株式会社の代表取締役で、ロシア国籍の男(38)です。男は2023年1月、国の承認を受けずに船舶用のエンジン1台と水上バイク4台、中古バイクなど合わせておよそ4,000万円分をロシアに不正に輸出した外為法違反(無承認輸出)の疑いがもたれています。
2023年4月に情報提供があり、同年秋に、大阪府警はアストレードの家宅捜索に踏み切りました。捜索の結果、同年1月に大阪からコンテナが輸出され、翌月に韓国・釜山経由でロシア・ウラジオストクの港に到着していたことが判明したとのことです。
報道などによりますと、アストレードは長年、日本の雑貨や食品、中古車などをロシアに輸出していたといいます。2022年2月のウクライナ侵略以降、多くの日本企業は、ロシア関連の事業の停止または撤退を行いましたが、アストレードは輸出業を続けていたとみられています。
2022年度のアストレードの売上高は約23億円にのぼり、前年度比で約2.5倍増えたとも報じられています。
経済制裁について
外国為替及び外国貿易法、通称、「外為法」は、貿易取引や対内投資などの対外取引の管理や調整を行うための法律です。この法律には、日本の平和や安全保障、国際平和への寄与にあたっての経済制裁に関する規定も含まれています。
政府は、ウクライナへの侵攻を続けるロシアに対して経済制裁を行っており、その一環として、軍事転用される恐れがある製品等を輸出禁止としています。
輸出禁止となっている主な製品等は、以下のとおりです。
・半導体
・通信機器
・化学工業生産品
・鉄鋼
・輸送用の機械およびその部分品
・衣類
・宝飾品
その中で、「輸送用の機械およびその部分品」については、排気量1900cc超の自動車(ガソリンエンジン車、ディーゼルエンジン車)、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)なども対象に含まれています。
日本は、ロシア以外にも、北朝鮮、コンゴ民主共和国、スーダン、イランなどの国々のほか、タリバーンやテロリストなども対象に経済制裁を行っています。制裁の内容は、それぞれ異なりますが、支払・資本取引などの金融制裁のみに留まるケース、貨物の輸入のみを禁止しているケース、いずれも実施しているケースなどがあります。
ちなみに、北朝鮮については、緊張関係が高まっていることから、金融取引のみならず、あらゆる品目の輸出入が禁止されています(人道目的などの限定的な場合を除く)。
制裁関連(経済産業省)
外為法違反には重い罰則も
外為法では、経済産業省から必要な許可を得ずに技術提供や貨物の輸出を行った場合、重い行政制裁と共に刑事罰が科される可能性があります。
〇行政制裁の例
3年以下の輸出等の禁止、企業名を原則公表しての警告、経緯書・報告書の提出要求、包括許可の取り消し等
○刑事罰
10年以下の懲役もしくは法人対しては10億円以下、個人に対しては3,000万円以下の罰金
罰則の対象となるのは個人だけでなく、当該個人が所属する法人も含まれます。勘違いや思い込みなどから、意図せず外為法違反を犯してしまうケースも少なくないため、細心の注意が必要となります。