はじめに
日本製紙株式会社の子会社、日本製紙クレシア株式会社は、自社の「従来より3倍長いトイレットペーパーに関する特許」を侵害されたとして、大王製紙株式会社に対し、製品の製造・販売の差し止めなどを求めた訴訟を東京地方裁判所に提起していました。
裁判所は8月21日、大王製紙側の特許権侵害を否定、原告の請求を棄却する判決を下しました。
日本製紙クレシアと大王製紙が長巻トイレットペーパーめぐり訴訟
日本製紙クレシアは1ロールの長さが従来よりも3倍長いトイレットペーパーを2016年4月から「スコッティ」ブランドで展開。同社はすでに関連特許を50件以上取得しています。
その日本製紙クレシアが訴訟を提起したのが2022年9月。大王製紙が2022年春から販売する“3.2倍長いトイレットペーパー”が日本製紙クレシア社の特許を侵害しているとして、製造・販売の差し止めや廃棄、3300万円の損害賠償などを求めました。
差し止め等の対象となったのは、大王製紙の「エリエール i:na(イーナ)トイレットティシュー 3.2 倍巻 4ロール」などの3製品です。
日本製紙クレシアが主張した特許権侵害は全部で3件。紙の表面の凹凸や包装に関するものです。
①登録番号 第6735251号:トイレットロール
②登録番号 第6590596号:ロール製品パッケージ
③登録番号第6186483号:トイレットロール
そもそも1ロールが長いトイレットペーパーを作るにあたっては、従来のトイレットペーパーの巻き方や質感に工夫を施さなければ、柔らかさや手触り、使用感に問題が出てくるのだといいます。
そのため、どちらの会社も紙の表面に凹凸をつける処理を行っています。
この凹凸のへこみ部分の深さについて、日本製紙クレシアは大王製紙の製品が自社の特許で定めた範囲内にあるなどと主張していました。
一方の大王製紙は「特許の技術的範囲に属さない」と反論していました。
紙の構成異なり特許権侵害に当たらないと判決
両社の主張がぶつかる中、8月21日、東京地方裁判所は日本製紙クレシアの請求を棄却する判決を下しました。
裁判所は、紙の表面の凹凸の深さについて、日本製紙クレシアの測定方法が特許の説明文書に記載された方法と異なると指摘。3製品とも日本製紙クレシアの特許発明が定める数値の範囲にないとして、特許権侵害を認めませんでした。
また、その他にもパッケージの持ち手の穴の形に関して争われていましたが、両社の製品は構成が異なることから、こちらも特許権侵害に当たらないと結論づけています。
判決を受け、日本製紙クレシアは、知的財産高等裁判所へ控訴を提起する意向を示しています。
【判決文】
令和4年(ワ)第22517号 特許権侵害差止等請求事件(裁判所)
コメント
芯の交換頻度が減ることや、収納スペースが節約できること、トイレットペーパーの購入頻度自体を減らせることなどから、長巻のトイレットペーパーの人気は上昇しているといいます。
実際に、今回の訴訟で被告となった大王製紙でも、2024年3月期、トイレットペーパー製品全体の売上高のうち4割以上を1.5倍巻以上の製品が占めていたと報じられています。
一方で、家庭内のホルダーの大きさ自体は変わらないことから、トイレットロールの大きさをホルダーに収める必要があり、長く巻きながら厚みを減らし、なおかつ使用感を維持・向上させたトイレットペーパーが市場では求められます。
そのため、現在の長巻のトイレットペーパーには、こうしたユーザーのニーズを満たすための特許技術がふんだんに詰め込まれています。
そうした中で起こった今回の訴訟。実は、日本製紙クレシアと大王製紙は、過去にも、保湿ティッシュ・エリエール(大王製紙)とクリネックス(日本製紙クレシア)の製造方法の特許をめぐり訴訟で争っています。そちらの訴訟では、大王製紙が原告となり日本製紙クレシアを訴えましたが、知財高裁までもつれた結果、「日本製紙クレシア側の特許権侵害は認められない」として大王製紙側が2016年に敗訴しています。
今回の知的財産高等裁判所の判決と「クリネックス アクアヴェール」の技術開発について(日本製紙クレシア株式会社)
請求額もそれほど大きくないことから、一部の専門家などからは、ブランディング上の争いとも見られている、今回の長巻トイレットペーパー訴訟。日本製紙クレシアは控訴するとみられており、引き続き裁判の行方が注目されます。