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ワコールが接客の新指針発表も「性のあり方に関わらない接客方針」が物議

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はじめに

下着メーカーの株式会社ワコールは今年8月、従業員向けに接客指針をまとめたガイドラインを公開しました。「消費者の人権と多様性を尊重する取り組みを推進する」として、障害の有無や性のあり方に関わらず、どの消費者も安心して買い物ができるよう会社が定めたものです。 このガイドラインについてSNSなどで一部支持する声が上がる一方、LGBTQ+に関する項目について不安を抱く声も聞かれます。
 

さまざまな困りごとに対応へ

主に女性向けの下着などを販売するワコール。8月7日に接客指針をまとめたガイドラインを公開しました。 ガイドラインは、従業員を対象にしたもので、障がいのある方や高齢者、小さい子どもを連れた方など、様々なお客が買い物の場面で抱える「お困りごと」を中心に対応を説明するものです。 このガイドラインを基本方針として、売場設計や接客時の心がけを行うことが期待されています。 例えば、以下の内容などが記載されています。 ・車椅子や歩行補助具を使った人などへ移動のサポートをする ・目の見えない方や老眼の方などへ説明する際には「こちら」などの抽象的な言葉ではなく「右、左」など具体的な言葉を使う ・子ども連れ、障害のある方は立ったままの接客が難しいことがあるため、フィッティングルームに椅子をできる限り用意する
 

LGBTQ+のお客への対応が議論を呼ぶ

このガイドラインにはLGBTQ+のお客に対する接客方針も記載されています。LGBTQ+とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーに加え、他のさまざまな性のあり方も含めた総称です。 ガイドラインでは、「性別にかかわらず、お客さまのご要望をお聞きしながら、商品選びのご相談に対応する」ことを基本方針とするとされています。 そして、その一環として、ガイドラインでは、例えば接客をする際の言葉遣いとして、 「奥様/女性へのプレゼントですか?」 「女性らしくて素敵なデザイン」 など性のあり方を決めつけるような表現は避けるよう指導しています。 さらに、インナーウェア売場の買い物の場面では、特にトランスジェンダーの方やクロスドレッサーの方(性自認と身体的性が一致しているが、女装/男装などの異性装をする方)が課題に直面しやすい傾向にある点を踏まえ、以下の対応を行うといいます。 【課題1】自身のサイズがわからない →一部店舗にて、フィッティングルームの外でのアンダーバストの採寸を実施する 【課題2】試着がしづらい →性別にかかわらず利用可能なフィッティングルームがある場合にはそちらへ案内する (女性インナーウェア売場のフィッティングルームには、外見や会話内容から女性だと判断されたお客さまに限り案内する) こうした接客対応についてSNSなどでは賛同する声が上がった一方で、トランスジェンダーでもクロスドレッサーでもない男性が、ワコールの下着売り場をうろついたり、購入を目的とせずに試着を行うことなどを懸念する投稿も見受けられました。 なお、ワコールでは「性別にかかわらず利用可能な試着室」の情報をホームページ上に掲載するとしています。
 

最高裁 性別変更で「生殖不能要件」違憲判断

今回SNSなどでワコールのガイドラインが議論を呼んだ背景には、トランスジェンダーが戸籍上の性別を変更する際の要件を定めた「性同一性障害特例法」があるとみられています。特例法では性別変更の際の5要件を定めており、事実上性転換手術が必要とされてきました。 しかし、2023年10月に最高裁が、性別変更の5要件のうち「生殖不能要件」は、違憲と判断しています。 この最高裁判決が下された際、世間では、「銭湯でトラブルが発生するのでは」、「わざと女性トイレを利用する人もいるのでは」といった懸念の声があがり、白熱した議論が交わされました。その余波として、今回、ワコールのガイドラインが物議を醸したとみる向きもあります。
 

コメント

今回のワコールのガイドラインは、あらゆる消費者が安心して買い物を楽しめる、“多様性が尊重される社会”を整えるための重要な一歩といえます。 その一方で、尊重されるべき多様性の中には、性自認や性的志向をはじめ、その“内心”により特徴づけられる属性も少なくありません。それは、必ずしも身体的特徴や服装などの外面には表れないため、多様性を尊重する動きに対し、「内心を偽装し、制度を悪用する者が現れるのでは?」と懸念する声も後を絶ちません。 性のあり方が多様であることを理解すること、性のあり方を決めつけず押し付けないこと。私たち一人ひとりが多様な価値観を尊重し、共に学び合いながら社会全体の理解を深めつつ、制度の悪用を防止する仕組みを丁寧に設計していくことが求められています。
 
【参考】従業員向け「多様なお客さまが利用しやすい売場づくりと接客のためのハンドブック」を制作(株式会社ワコールホールディングス 株式会社ワコール)
 

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