はじめに
格安航空会社(LCC)「ジェットスター・ジャパン」(千葉県成田市)の乗務員らで作る労働組合幹部らが受けた懲戒処分の取り消しを求めた訴訟で2日、東京地裁が処分を無効とする判決を出していたことがわかりました。処分理由が無いとのことです。今回は懲戒処分の手続きについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、ジェットスター・ジャパンの労働組合「ジェットスタークルーアソシエーション」の執行委員長が労組活動の一環として同社に送付した未払賃金に関するメールについて、「誤った情報を拡散し、会社の規律を乱した」などとして20日間の出勤停止処分を下したとされます。また副委員長が行った賃金控除に関する上司への問い合わせもハラスメントに当たるとされ15日間の出勤停止処分が下されたとのことです。2人は懲戒処分の無効確認と慰謝料などを求め東京地裁に提訴しておりました。
懲戒処分とは
懲戒処分とは、会社が従業員の非違行為等に対して科す制裁を言うとされます。その種類は、戒告、譴責、訓告、出勤停止、減給、降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。戒告と譴責、訓告は呼び名が違うもののその内容はほぼ同じものであり、問題行動を起こした従業員に対する指導ということです。経済的な不利益はありません。これらに対し、それ以外の懲戒処分には従業員に経済的な不利益を科す内容となっております。なお減給については労基法91条に規制が置かれており、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないとされます。また諭旨解雇は通常通り退職金が支払われることが一般的ですが、懲戒解雇の場合は退職金の全部または一部が支払われないことが多いと言えます。
懲戒処分の有効要件
懲戒処分が有効と認められるためにはまず、使用者が労働者を懲戒することができる場合である必要があります。つまり懲戒事由とそれに対する懲戒処分を就業規則に規定しておくことが求められます。なお労基法89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し行政官庁に届け出なければならないとし、記載事項として「表彰及び制裁の定めをする場合においていは、その種類及び程度」が挙げられております。次に懲戒理由とされた労働者の行為が懲戒事由に該当する「客観的に合理的な理由」の存在が求められます(労働契約法15条)。そして当該行為を理由として懲戒権が発生する場合でも、その懲戒権の行使が「社会通念上相当」でなければ無効となってしまいます。この相当性については、懲戒事由とそれに対する処分の相当性、従業員間の取り扱いの平等性、手続きや弁明の機会の有無などから判断されると言われております。
懲戒処分の手続き
従業員に懲戒事由が発生した場合の懲戒手続きとしては、まずその内容や手続きについて就業規則を確認することから始まります。会社によっては懲戒委員会や賞罰委員会などに諮る旨が定められている場合があります。そして対象となっている従業員に対し、弁明の機会を与える必要があります。どのような懲戒事由が発生しており、どのような処分が科されるかを伝えた上で、言い分を聴く場を与えるということです。その後、懲戒処分を正式に決定した場合、懲戒処分通知書を当該従業員に交付することとなります。これら一連の手続きの流れの中で、弁明の機会を与えることが最も重要と言え、裁判所も懲戒処分の有効性の判断においていは非常に重視していると言われております。
コメント
本件でジェットスター・ジャパンは労組委員長と副委員長による賃金に関するメールや上司への問い合わせに関して、会社の規律を乱した、またハラスメントに当たるとして15日または20日の出勤停止処分を出したとされます。これに対し東京地裁は、懲戒事由がそもそも認められないとし、懲戒権の濫用に当たるとして懲戒処分の無効と慰謝料50万円の支払いを命じました。2人の同社に対する問い合わせは根拠があるものと認められたとのことです。以上のように懲戒処分が有効であるためには、まず就業規則に規定された懲戒事由の存在が必要です。その上で客観的合理性と社会通念上相当性が必要であり、さらに弁明の機会の付与等といった手続きの履践も重要です。このように懲戒処分を会社が有効に下すには多くのハードルがあり、どこかに不備がある場合は訴訟で無効と判断されることがあります。就業規則の規定も含め、必要な手続きなどを今一度確認し、周知しておくことが重要と言えるでしょう。