はじめに
消費者庁は先月21日、実際には仕入れていない神戸牛を3割引で販売するとの公告を出していたのは景表法違反に当たるとしてスーパー「イズミヤ」(大阪市)と食肉販売会社「牛肉商但馬屋」(兵庫県姫路市)に対し措置命令を出していたことがわかりました。景表法が禁止するおとり広告について見ていきます。
事件の概要
消費者庁と公取委の発表によりますと、イズミヤとその店舗内で食肉販売を行っている牛肉商但馬屋は昨年2月13日から同月15日まで新聞折込チラシ、ウェブサイトで「第2土日感謝デー」「和牛専門店但馬屋、神戸牛・佐賀牛 今ついている本体価格よりレジにて3割引」等の表示を行っておりました。しかし実際には同日に販売するための神戸牛等の仕入れは行われておらず、対象商品について顧客に対し取引に応じることができない状態でした。これを受け消費者庁は先月21日、同社が行っていた広告表示は「おとり広告」に該当し景表法5条に違反するとして①当該表示が景表法違反である旨の周知徹底②再発防止策を講じて役員・従業員に周知徹底③今後、同様の表示を行わないことを命じる措置命令を出しました。
景表法上の規制
景品表示法では、消費者が商品・サービスを選択するに際して品質や価格等の表示において誤認されるおそれのある不当な表示を禁止しております。景表法上の主な表示規制としては商品・サービスの品質、規格等についての不当表示である優良誤認表示(5条1号)、商品・サービスの価格その他取引条件についての不当表示である有利誤認表示(同2号)、そしてその他内閣総理大臣による指定(同3号)があります。優良誤認表示・有利誤認表示については以前にも取り上げましたが、「おとり表示」は3号の内閣総理大臣によって指定される不当表示の一種です。指定による不当表示にはおとり広告の他に、無果汁清涼飲料水についての表示、原産国に関する不当表示、有料老人ホームに関する不当表示等が挙げられます。
おとり広告とは
消費者庁のガイドラインによりますと、おとり広告とは実際には表示どおりに購入することができないにもかかわらず、一般消費者がこれを購入できると誤認する表示を言います。このような表示は不当に顧客を誘引し公正な競争を阻害するおそれがあるものとして規制されております。ガイドラインではおとり広告として以下の4類型が挙げられております。
(1)取引を行うための準備がなされていない場合
これは事業者の責任において広告の商品等が店頭に陳列されていない場合や、広告、ビラ等に表示されている販売数量よりも実際に販売できる数量が少ない場合、表示されている品揃えよりも陳列されている品揃えが少ない場合、広告の引き渡し期間よりも長期を要する場合等が挙げられます。また実際には売却済みである場合や売却委託されていない他者の所有物等も該当することになります。
(2)供給量が著しく限定されているにもかかわらず、明瞭に記載されていない場合
「著しく限定されている」とは、実際に販売できる数量が予想購買数量の半分にも満たない場合を言います。予想購買数量はその店舗での従来、同様の広告によって行われた取引数等を考慮して算定します。「◯◯製品5割引」といった表示をした場合に、実際にその製品の数量がわずかであるにもかかわらずその旨表示していない場合に該当することになります。
(3)供給期間、顧客一人あたりの供給量等が限定され、その旨明瞭に表示されていない場合
実際の販売日や販売時間、販売の対象客、一人あたりの販売量に限定があるにもかかわらず、その旨が明瞭に表示されていない場合が該当することになります。限定の内容を具体的、詳細に明示することなく単に限定がある旨だけ表示した場合も該当します。
(4)取引成立の妨害が行われる場合
広告で表示したにもかかわらず、実際には①店舗で顧客に対し広告商品を見せない、顧客に説明しない②広告商品に関する難点をことさらに指摘する③広告商品の取引を事実上拒否する④広告商品の購入を希望する顧客に対し他の商品を、顧客の拒否にもかかわらず重ねて推奨する⑤広告商品を販売した場合、販売員にペナルティを課す状況下で他の商品を推奨するといった行為が該当することになります。
コメント
本件で但馬屋は実際には仕入れておらず、顧客に販売することができない神戸牛等を土日に3割引で販売する旨の広告を配布していました。これは店舗で陳列されず顧客に販売する準備がなされていない場合に該当します。これによりイズミヤと但馬屋は措置命令(7条1項)を受け、これに違反した場合には2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が課されることになります(36条1項)。不当表示に関しては優良誤認表示、有利誤認表示については措置命令の他に課徴金納付命令が出されることもありますが、本件のような総理大臣指定の不当表示には課徴金は課されません(8条1項括弧書き)。広告に目玉商品を掲載して集客を行うことは従来から一般的に行われている広告手法です。そこには本来なんらの違法性はありません。しかしその目玉商品が実際には存在しないといった場合には不当な顧客誘引として違法となります。実際に存在していても、わずかな数量しか販売出来ない場合も違法となります。折込広告等を打つ場合にはこの点に留意して不当な集客行為とならないよう注意することが重要と言えるでしょう。