1 はじめに
企業が取引先と契約を締結し、取引先が倒産した場合に企業の法務担当者は自社のリスク回避や債権回収の手段を講じる必要があります。そこで、企業の法務担当者はどのような手段を講じるべきかをまとめたいと思います。
2 事前に採りうる手段
(1)情報収集・担保権設定
企業の法務担当者は、取引先企業の企業活動や事業環境の変化の動向に注視した上で、日頃から情報収集をする必要があります。また、予め取引先企業に対して、債権回収を確実にするために担保権を設定するという方法が考えられます。
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(2)倒産解除特約
倒産解除特約とは、取引先が倒産手続を開始した場合に無催告で契約を解除できる条項のことを指します。このような倒産解除特約が有効であるかについて、民事再生手続の場合には、最高裁判例(最高裁平成20年12月16日判決)で民事再生手続開始申立てがあった場合に倒産解除特約の効力を否定しています。
また、破産手続における場合でも、下級審の裁判例では倒産解除条項が無効になると判示されました。
とすると、無効と判断される可能性の高い倒産解除特約を契約書に規定することはリスクが高いと思われます。
もっとも、インターネットで無料にダウンロードできる契約書のひな形に、倒産解除特約が記載されているものも少なくないのが現状です。しかし、無効と判断される可能性の高い倒産解除特約を使用しない方が無難かと思われます。
3 倒産後の取引先企業に対する債権回収手段
①契約解除
(1)双方に未履行の債務を負う契約の場合
企業の法務担当者は、取引先企業の破産管財人または再生手続を受けた債務者に対して、「相当の期間」を定めて期間内に「契約の解除」をするか、又は「債務の履行を請求する」かを答えるように「催告」することができます(破産法53条2項、民事再生法49条2項)。
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(2)継続的給付を目的とする双方に債務を負う契約の場合
この契約は双方に未履行の債務を負う契約の場合と同様に処理されます。もっとも、取引先に有する債権は重要度の高い債権として倒産手続によらない通常の債権よりも優先して弁済を受けることができます(破産法55条、民事再生法50条参照)。
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②相殺
(1)原則
取引先に対して買掛金などの債務を負担している場合には、お互いの企業が有する債権債務を対当額で相殺することで代金債権の支払と同様の効果を得ることができます。取引先が破産手続の開始決定を受けた場合には、破産手続によらないで相殺することができます(破産法67条1項)。他方で、民事再生手続の開始決定を受けた場合には、一定の場合に限り再生計画の定めによらないで相殺をすることができます(民事再生法92条1項)。
なお、倒産手続開始後に「他人」の債権を取得した場合や倒産手続が開始されたことを知った上で債権を取得した場合には相殺が禁止されるので、注意が必要です(破産法72条1項各号、民事再生法93条1項各号)。
(2)例外
もっとも、相殺権の行使を期待できる時には、一定の条件を満たせば相殺が禁止されている場合でも相殺することができる場合があります。法律上の原因がある場合や倒産手続開始以前の原因による場合です(破産法72条2項各号、民事再生法93条2項各号)。
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