はじめに
菓子パンや和菓子などの包装フィルムのデザインで、著作権者に無断で改変がなされているとして、千葉県浦安市のデザイナーである峯崎祐子さん(51)が7日、包装フィルム会社(船橋市)に対し、デザインを使用した商品の撤去と、総額約1億4800万円の損害賠償を求め千葉地裁に提訴していたことがわかりました。今回は著作者人格権の一つである同一性保持権について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、峯崎さんは第41回現展デザイン部門の新人賞を受賞し、「地域限定ばかうけ」(栗山米菓)や「苺大福」(山崎製パン)等の包装フィルムのデザインを手がけておりました。包装フィルム会社は食品メーカーから受注を受け、デザイン会社にデザインを発注し、デザイン会社は専属外注デザイナーとして峯崎さんにデザインを発注していたとのことです。2011年頃デザイン会社は峯崎さんとの専属契約を終了し、その後は包装フィルム会社が直接嶺崎さんに外注していましたが、それも徐々に減少していったとしています。原告側の主張では峯崎さんのデザインを無断で改変し使用していたとされ、その数は計1149点に上るとのことです。
著作権の発生
著作権は商標や意匠権と違って、著作者が「著作物を創作」したときに自動的に発生します。それはデザインを外部デザイナーに外注した場合も同様で、そのデザイナーが著作権と著作者人格権を取得することになります(著作権法17条1項)。これはいわゆる強行規定で契約でそれに反する特約を設けていても変わることはありません。外注したデザインを以後も様々な媒体で使用したい場合は著作権者から著作権を買い取るということが考えられます。著作権も当事者の意思により譲渡することが可能だからです(61条)。しかし著作者人格権については一身専属的な権利であることから、譲渡することはできないとされております(59条)。
著作者人格権とは
著作者人格権とは財産権である著作権とはことなり、著作者の人格的利益を保護するもの、すなわち人格権の一種とされます。具体的には公表権、氏名表示権、同一性保持権、名誉・声望保持権などがあります(18条~20条等)。公表権とは、未発表の著作物について公表する権利を言います。公表するか否か、いつどのように公表するかについて決定する権利です。氏名表示権とは、著作物の公表に際して著作者の実名・変名を表示または表示しない権利を言います。名誉・声望保持権とは、著作者の名誉や声望を害する方法・態様での著作物の利用を防止する権利です。そして同一性保持権とは、著作者のいに反して著作物の変更や切除、その他の改変をすることを禁止する権利です。これには一定の例外があり、学校教育の目的上やむを得ない場合や建築物の増改築、修繕の場合、プログラム著作権の場合、その他「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない」場合に改変が認められます(20条2項1号~4号)。
著作権等の譲渡
上記のように著作物を継続的に利用したい場合は著作権者から著作権を買い取ることが考えられます。しかし著作権の譲渡に関してはいくつか注意すべきことがあります。まず翻案権と二次的著作物に関する権利については特掲がない限り譲渡を留保したものと推定されます(61条2項)。翻案とは既存の著作物を利用し表現形態を変えた新たな創作をすることです。たとえば小説を映画化するようなことです。そうしてできた著作物などを二次的著作物と呼びます。これらに関する権利については特にその旨記載しなければならないということです。また著作者人格権も上で述べたとおり譲渡ができませんし、また争いはあるものの「放棄」も一般的にできないと言われております。そこでこれらも含めて包括的に買い取りたい場合は著作者人格権不行使特約を盛り込むことが考えられます。これに関しては裁判例でも有効性を認めております(東京地判平成13年7月2日)。
コメント
本件で包装フィルム会社が峯崎さんに外注したデザインについての著作権は原則として峯崎さんに帰属します。原告側が主張するように包装フィルム会社が峯崎さんに無断でデザインを改変していたのであれば著作者人格権の一つである同一性保持権を侵害したことになります。包装フィルム会社が以後独自にデザインを使用し、また変更等を行っていきたいのであれば著作権の譲渡とそれに付随して著作者人格権不行使特約を締結しておく必要があったと言えます。このように製品の包装だけでなく、会社のトレードマークやマスコットキャラなどのデザインを外部のデザイナーに外注することは多いと思われます。しかしその場合、デザインの利用の仕方によっては著作権等との関係上複雑な問題が生じることも多々あります。デザインの著作権の帰属はどうなっているのか、それを他の商品に利用する場合やデザインを一部変更する場合はどのような権利に抵触するのかを正確に把握し、権利者と必要な手続を取ることが重要と言えるでしょう。