はじめに
神戸市は3月28日、最終学歴を詐称していたとして水道局職員(42)を懲戒免職していたことがわかりました。大卒であるにもかかわらず高卒としていたとのことです。今回は経歴詐称が発覚した場合に懲戒解雇ができるのかを見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、元水道局の技術職員であった男性職員は実際には大卒であったにもかかわらず高卒と偽り、受験資格が高卒以下となっている受験区分に受験し合格しました。2001年に入庁し、5年後に行われた全庁調査でも虚偽の経歴を報告していたとされます。その後匿名の通報により発覚し懲戒免職処分となったとのことです。同庁では昨年11月にも同様の経歴詐称事件があり、観光局の男性事務職員が懲戒免職となっております。
懲戒解雇の要件
懲戒処分を行うためにはまずどのような場合にどのような処分がなされるのかを就業規則によって定めておく必要があります。これは予め定めておく必要があり、なにか懲戒すべき事由が生じた後で就業規則に定めても、遡って懲戒処分を行うことはできません。そして懲戒事由を行った従業員に対しては十分な調査をした上で弁明の機会を与え、懲戒処分を行うことが客観的に合理的であり、社会通念上相当である場合に可能となります。なお懲戒解雇をする場合でも1ヶ月前の解雇予告か1ヶ月分の賃金支払が原則として必要となります。労基署長に解雇予告除外認定申請も可能ですが要件は厳格である程度時間がかかります。
経歴詐称と懲戒解雇
一般的に企業が採用選考するに際して、労働能力に関する事項や企業秩序に関する事項について必要かつ合理的は範囲で申告を求めることができるとされております。そして学歴も労働能力や企業秩序維持に関して重要な評価基準であることから原則として懲戒処分の対象とされております。裁判例では学歴を高く詐称するだけでなく、低く詐称する場合も同様に該当するとしています(東京地裁昭和55年2月15日)。ただし学歴を明確な採用基準としていない場合、たとえば募集時に「学歴不問」などとしていた場合には解雇はできないことになります。職歴の場合は採用に当たっての決定的な基準となることが多いことから、職歴詐称は懲戒事由となりやすいと言えます。また犯罪歴に関しても、タクシー運転手やバス運転手などの場合に、過去に飲酒運転等の犯罪歴を隠していた場合など職種や職場によっては重大な基準となる場合には解雇が認められます。
採用時の注意点
企業側は採用選考の際に上記のとおり必要かつ合理的な範囲で申告を求めることができます。では応募者はどこまで申告する義務があるのでしょうか。この点あくまで信義則の範囲で求められた事実について答える義務があるとされております(最判平成3年9月19日)。つまり問われていないことについては不利益な事実であっても積極的に申告する義務はないとされます。また犯罪歴については上記のように職種や職場の関係上重大な影響を及ぼすといった「特段の事情」が無い限り、信義則上の告知義務も負わないと言われております(仙台地裁昭和60年9月19日)。
コメント
本件で神戸市は大卒であるにもかかわらず高卒であると偽って高卒採用区分に受験していた職員を懲戒免職にしました。民間企業の場合は特に高卒であることを採用基準としていた場合でなければ、その後問題無く業務遂行が行えており、企業秩序も害さない場合解雇は認められない場合があります。この点公務員の受験枠等の公正といった公的な理由なども大きく影響していると考えられ、民間企業とは一律には比較できない部分もありますが一般的には学歴詐称は解雇事由になりやすい重大な事項と言えます。以上のように企業側は採用選考で必要かつ合理的な範囲でなければ申告を求めることはできず、また相手側も信義則の範囲で問われたことに答える義務を負うことになります。申告を求めていなければ不利益な事実を秘匿していても原則的には懲戒事由となりません。採用の際には自社の職種、職場の秩序や社風などを考慮して学歴等を重視する場合にはその旨をできるだけ明らかにし、重要事項は漏らさず確認を行っておくことが重要と言えるでしょう。