はじめに
昨年12月に株式交換によってアルパインを完全子会社としたアルプスアルパインに対し株式交換無効の訴えが提起されていることがわかりました。株式交換比率などが著しく不公正であるとしています。今回は株式交換等の組織再編行為に対する無効の訴えについて見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、アルプス電気は昨年12月にアルパインを完全子会社とする株式交換を行いました。交換比率はアルパイン株1株に対しアルプス電気株0.68株とのことです。同時に株主に対し1株あたり100円の特別配当決議も承認されたとされます。これに対しアルパインの株式の約10%を有していた香港のヘッジファンドであるオアシスマネジメントは交換比率などがアルパインの企業価値を著しく過小評価していると反発、株式交換無効の訴えを提起しました。
株式交換とは
株式交換とは、特定の会社の全株式を親会社となる会社に強制的に取得させ、株主には代わりに親会社の株式等を交付するというものです(会社法2条31号)。つまり完全親子会社関係を創出するための組織再編行為の一種です。子会社となる会社の株主全員の同意を得ることなく、株主総会で3分の2以上の賛成(特別決議309条2項12号)で100%の株式を取得することができる制度です。
株式交換無効の訴え
株式交換を含め、合併や分割、株式移転等の組織再編行為について一定の要件のもとに無効の訴えを提起することができます(828条1項各号)。提訴期間は効力発生日から6ヶ月で、提訴権者は株主や取締役、監査役、執行役、清算人、破産管財人等となっております。通常判決の効力は訴訟当事者にしか及びませんが、このような会社の組織に関する訴えの認容判決の効力は第三者にも及ぶとされます(対世効838条)。また本来無効とは最初にさかのぼって無かったことになりますが、会社関係の安定のため将来効となっております(839条)。
無効事由
それではどのような場合に株式交換が無効となるのでしょうか。この点会社法には合併や株式交換等の組織再編の無効の訴えにつき無効事由の規定は無くもっぱら解釈に委ねられております。一般的には組織再編行為は多くの利害関係人が存在し、法的安定性を要することから無効原因は重要な手続き違反に限られるべきとされます。株主総会による承認決議に取消原因がある場合は無効事由に該当すると考えられますが取消訴訟の提訴期間に合わせて3ヶ月以内でなければ無効を主張できないとされます。また合併比率の不公正については、比率の算定自体があらゆる客観的事実をもとに、様々な算定方法によって行われ、また株主も株式買取請求などを行えることから原則として無効事由とはならないとの裁判例があります(東京高裁平成2年1月31日)。
コメント
本件でアルプス電気は株式交換に先立ってSMBC日興証券等の第三者委員会から株式交換比率等についての適否の意見を受けているとしています。それによりますと適正な交換比率のレンジは0.45~0.65とのことです。上記のように交換比率は様々な事情を考慮して算定され、また算定方法も一様ではないことからよほど極端な数値でないかぎり無効とは判断されにくいのではないかと考えられます。以上のように組織再編無効の訴えの無効事由は明確ではありませんが、必要な承認決議を欠くなど法定の手続きに違反している場合は無効とされる可能性は高いと言えます。株主の数が少ない中小企業でも組織再編の際には適切に手続きを履践して株主等からの提訴を予防していくことが重要と言えるでしょう。