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製菓会社に賠償命令、給与減額の可否

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はじめに

 製菓会社の男性従業員が一方的に給与を減額されたとして減給の無効確認や慰謝料の支払いを求めていた訴訟で15日、福岡地裁は減給を無効とし、慰謝料70万円の支払いを命じていたことがわかりました。同社社長は「裁判でもなんでもどうぞ」などと挑発していたとされます。今回は給与減額の可否について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、福岡県飯塚市の製菓会社「キムラフーズ」に勤務する男性従業員は2017年2月に月給を5万円減額すると通告され、これに対し異議を述べると「裁判でも何でもどうぞ」と言われ7万円減額されたとしています。また2016年~2017年には仕事でミスをした際に背中を叩かれたり「全く信用していない」「給料を下げてくださいと言え」などと暴言や暴行を受けていたとのことです。男性従業員は同社を相手取り減給無効の確認と慰謝料などを求め福岡地裁に提訴していました。

賃金に関する規制

 会社が労働者に支払う賃金については各都道府県ごとに決まっている最低賃金以上の額を支払う必要があります(最低賃金法4条1項)。そして賃金は「通過で、直接労働者に、その全額を支払」わなければならず(労基法24条1項)、また「毎月一回以上、一定の期日」に支払う必要があります(同2項)。また賃金は労働条件の一種であることから明示し就業規則に記載する必要があり(89条2号)、正規と非正規で不合理な格差を設けることは禁止されます(労働契約法20条)。

賃金変更の可否

 賃金などの労働条件は労働者と使用者の合意によって変更することができます(労働契約法8条)。しかし使用者は合意無く一方的に就業規則を変更するなどして労働条件を不利益に変更することはできません(同9条)。例外的に「不利益の程度、…変更の必要性、変更後の…内容の相当性、…交渉の状況」等に照らして合理的な場合は使用者は労働条件の変更が可能であるとされております(同10条)。以下賃金変更に関する裁判例を見ていきます。

賃金変更に関する裁判例

(1)労働者の黙示の合意
 会社側が一方的に賃金を減額し、労働者側が明確な異議を述べたり差額の請求を行わなかった事例で裁判所は、「労働者が不満ながらも異議を述べずにこれを受領してきたからといって、これをもって賃金の減額に労働者が黙示の承諾をしたとはいえない」としました。また基本給は懲戒等以外では減額できず、また退職金の算定基準となり重大な影響を及ぼすものであることから合意なく一方的に変更できないとしました(大阪高裁平成3年12月25日)。

(2)明示の合意がある場合
 経営不振から他社と合併し給与基準が変更され、従業員が同意書に署名押印していたという事例では、変更を受け入れる労働者の行為の有無だけでなく、不利益の内容、程度、経緯、態様、先立つ労働者への説明などに照らし合意が「労働者の自由な意思にもとづいてされたもの」と認めるに足る合理的な理由が客観的に存在するかで判断すべきとしています(最判平成28年2月19日)。

(3)人事考課について
 職能資格等級制度を採用している会社で、定年まで低い級と査定されていたという事例で裁判所は、人事考課(査定)は労働能力、業務成績その他多種多様な要素を総合的に判断するものであるから一義的に判断が可能ではなく広範な裁量が認められており、不当な動機があったなど社会通念上著しく妥当性を欠くといった場合でなければ違法とは認められないとしました(大阪高裁平成9年11月25日)。

コメント

 本件で福岡地裁は、会社は同意も就業規則などの明確な根拠もなく減給したとし、また侮辱的な言葉や威圧的な言動を繰り返し、人格権を侵害したとして減額の無効と慰謝料70万円の支払いを命じました。労働契約法上の就業規則を変更できる場合の要件を満たしておらず、また労働者の自由意思に基づく合意も得られていないと判断されたものと考えられます。以上のように賃金は重要な労働条件の一つとして厳格に規制されており、会社側が一方的に減額することはできません。これは経営不振や労働者の成績不振といった事情があっても同様です。また侮辱的な言動なども裁判所でマイナスに判断されたり、労働者との紛争を助長する可能性が高いことから避けることが望ましいと言えます。給与減額が必要となった場合には感情的にならずに労働者側と真摯に交渉し対応していくことが重要と言えるでしょう。


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