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東電の日本原電への支援で株主側敗訴、株主の差し止め請求について

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はじめに

東京電力が日本原子力発電(日本原電)の東海第2原発の再稼働に向け、日本原電に経済支援をするのは違法であるとして東電株主2人が同社役員らを相手取り差し止めを求めていた訴訟で28日、東京地裁は請求を棄却していたことがわかりました。今回は会社法の株主による差し止め請求について見ていきます。

事案の概要

 報道などによりますと、東京電力は2019年10月、東日本大震災により稼働を停止している日本原電の東海第2原子力発電所を再稼働させるため資金援助をすると決定しました。東電側が負担する支援金は2000億円を超える見通しとされ、再稼働後に東電が支払う電気使用料金を前払いするかたちで支援するとされます。これに対し東電株主は、震災後東電の経営状態は悪化しており、他社を支援する余力は無いとして小早川社長ら経営陣を相手取り、支援の差し止めなどを求め提訴しておりました。

業務執行差し止め請求

 会社の取締役が法令や定款に違反するなど、会社にとって相応しくない業務執行をし、またはするおそれがある場合、本来は会社自身がそれを差し止めることになります。しかし会社がそれを行わない場合に、一定の要件のもと株主が取締役の行為を差し止めることが認められております(会社法360条)。公開会社では6ヶ月前から引き続き株式を保有している株主が差し止め請求をすることができます(同1項)。これはいわゆる総会屋やクレーマーのような権利濫用的に差し止めを行い会社運営を妨害する株主を排除することが目的です。非公開会社ではこのような制限はありません。

差し止めができる場合

 それではどのような場合に株主は取締役の行為を差し止めることができるのでしょうか。会社法360条1項では、取締役が「会社の目的の範囲外」の行為や「法令若しくは定款に違反する」行為をし、またはするおそれがある場合に差し止めができるとしております。会社法や金商法、独禁法といった法令に違反する行為はもちろん、その会社の定款や、定款に定められた会社の目的に違反するような行為も対象となります。そしてその行為によって会社に「著しい損害」が生じる場合に差し止めが可能です。なお事後的に取締役に対する損害賠償請求(423条1項)で事足りる場合は差し止める必要はないと考えられております。さらに監査役設置会社の場合は「著しい損害」では足りず、「回復することができない損害」が生じるおそれがなければ差し止めできません(360条3項)。これは本来株主ではなく監査役がするべきことだからです。

差し止め請求と仮処分

 裁判所に差し止め請求訴訟を提起しても判決が確定するまで、取締役の行為を差し止めることはできません。そこで通常は差し止め訴訟の提起に先立ち、民事保全法に基づいて職務執行停止の仮処分申立を行うことが一般的です(23条2項)。これにより迅速に裁判所から取締役に対し当該行為の禁止が命じられることとなります。この仮処分が認められるためには、①被保全権利の存在と、②保全の必要性が認められることが要件となっており、裁判官に対しそれらを疎明することとなります。

コメント

 本件で東電株主側は、東電に他社を支援する体力は無いとして、同社による日本原電に対する2000億円あまりにのぼる支援の差し止めを求めました。東電は指名委員会等設置会社であることから「著しい損害」では足りず「回復することができない損害」が生じるおそれまで必要となります。東京地裁は、東電はいまだ日本原電への具体的な支援や資金協力を決めておらず、仮に今後決めたとしても回復できない損害が生じるおそれがあるとは認めがたいとして請求棄却としました。以上のように取締役の業務執行に法令や定款、会社の目的に反した行為がある場合には株主は差し止め請求を行うことができます。しかし本来取締役は株主の委任のもと広汎な業務決定権限があり、それを過度に制限すべきでないことから、差し止め請求の要件は厳格なものとなっております。株主からの差し止めが申し立てられた場合には、その要件を満たしているかを慎重に見極めることが重要と言えるでしょう。

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