はじめに
アニメ制作会社「Signal-MD」が先月19日、公正取引委員会から下請法違反で指導を受けていたことがわかりました。下請事業者に対し書面を交付していなかったとのことです。今回は下請法上の親事業者の義務について見直していきます。
事案の概要
J-CASTニュースの報道によりますと、Signal-MDから2019年11月に打診され30分アニメの作画監督として制作に参加していたアニメーターの久高氏(55)は同社から36万円の契約を口約束で締結し、前金として18万円を受け取ったとされます。しかし残額の18万円については「あまり仕事をしていない」「成果を見せてからにしろ」などと支払いを拒否され「2月いっぱいに仕事が終わらなければ全部取り上げて一銭も払わん」などと言われたとのことです。同氏は労基署に紹介された中小企業庁に相談し公取委が調査に動いたとされます。
下請法による規制
下請法では立場の強い親事業者が下請事業者に対して優越的地位の濫用的行為を行うことを規制しております。その規制態様は書面の作成・交付など一定の行為を義務付け、また買いたたきや受領拒否、代金減額などの一定の行為を禁止しております。公取委や中小企業庁は必要があると認めるときは取引に関する報告をさせ、また立入検査をして帳簿や書類などの検査をすることができます(9条)。中小企業庁が違反事実を認めた場合は公取委に対して措置を請求することができます(6条)。そして公取委は違反事実に合わせて必要な措置を勧告します(7条)。なお書面作成・交付義務違反については罰則として50万円以下の罰金が規定されております(10条)。
親事業者の義務
(1)書面の交付義務
親事業者は下請事業者に発注する場合は直ちに書面を交付する義務を負います(3条)。記載事項は①親事業者と下請事業者の名称、②委託日、③下請事業者の給付内容、④給付物の受領期日、⑤受領場所、⑥給付物の検査完了期日、⑦下請け代金額、⑧代金の支払期日、⑨手形を交付する場合は手形金額と満期、⑩一括決済方式で支払う場合は金融機関名等、⑪電子記録債権で支払う場合はその額と満期日、⑫原材料等を支給する場合は品名、数量、対価等となっております。
(2)支払期日の定める義務
親事業者は下請事業者との合意により、給付の内容について検査をするかどうかを問わず下請代金の支払い期日を定める義務を負います(2条の2)。この期日は給付物を受領した日から起算して60日以内のできるだけ短い期間内で定める義務を負うとされます。
(3)書類の作成・保存義務
親事業者は下請事業者に発注した場合、給付の内容、代金等について記載した書類を作成し2年間保存する義務を負います(5条)。これは違反行為が生じた場合に備え、公取委や中小企業庁が事後的に是正しやすくするためと言われております。記載事項は3条書面とほぼ同様と言えますが、給付物の検査完了日や不合格の場合の取り扱い、やり直しをさせた場合はその内容と理由、下請代金を減額した場合はその額と理由、下請代金を一部支払った場合は残額、遅延利息を支払った場合はその額等の記載も求められております。
(4)遅延利息の支払義務
親事業者は下請代金をその支払期日までに支払わなかった場合は下請事業者に対し、物品等を受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日まで年率14.6%の遅延利息を支払う義務を負います(4条の2)。この60日という期間は上記支払期日の期間と同じです。
コメント
本件ではSignal-MDから個人事業主である久高氏に30分アニメの制作発注がなされました。報道ではすべて口頭による契約で書面の交付は行われなかったとされます。また代金の半分についても支払われていないとされます。公取委は下請法違反として書面による指導を出したとされます。下請法が親事業者に書面交付を義務付けているのは代金支払いなどで紛争が生じた際、立場の弱い下請け事業者側が不利益を被ることが多く、そのような事態を防止するためとされ、下請法による規制の根幹と言われております。J-CASTニュースによればアニメーション制作委託で契約書など書面交付がなされているのはわずか13.9%とされます。下請事業者への発注を行っている場合にはこれらの書面作成や交付がなされているかを今一度確認しておくことが重要と言えるでしょう。