はじめに
株主総会をオンラインだけで開催できるようにする改正産業競争力強化法が9日、参院本会議で可決・成立しました。完全オンライン総会実施には経産省の確認が必要とのことです。
今回は株主総会の手続きとオンライン開催について見ていきます。
事案の概要
現在新型コロナウイルス禍により、各社では定時株主総会の開催が困難な状況となっております。それを受けオンラインでの開催が昨年から検討されておりますが、現行会社法では完全なオンライン化はできず、一部オンライン化するとしても総会会場は押さえる必要があるのが現状です。
欧米ではすでに完全オンライン総会が導入されており、特に国土が広い米国では昨年の株主総会は約98%の会社で完全オンラインによる開催がなされたと言われております。
日本でも完全オンライン化に向けた法改正が検討されてきましたが、会社法改正には時間がかかることから政府は産業競争力強化法の改正により実現する方針を掲げ、2月の閣議決定を経て通常国会で審議されておりました。
株主総会招集手続き
招集手続きについては何度も取り上げましたがここでも簡単に触れていきます。株主総会は取締役会設置会社では取締役会決議で、非設置会社では取締役の過半数で開催日時、場所、議題等を決定し(会社法296条3項、298条4項、299条)、それに基づき代表取締役が招集します。
招集通知は公開会社で開催日の2週間前までに、非公開会社では1週間前までに行いますが、非公開会社で取締役会非設置会社の場合は定款でさらに短縮することが可能です(299条1項)。
通知は取締役会設置会社、または書面・電子投票を採用する場合は書面(株主の承諾でメールも可)で、それ以外の場合はメール、電話等、特に制限はありません(299条2項)。
開催場所
株主総会の開催場所は旧商法下では定款で定めた場所か、本店の所在地または隣接地に限定されておりました。現行会社法では特に制限は設けられておりません。
ただし過去に開催したいずれの場所とも著しく離れている場合はその場所で開催する理由を招集決定時に定めなければなりません(298条1項5号、施行規則63条2号)。開催場所が定款で定められた場合や、出席しない株主全員の同意がある場合は必要ありません。
今回の改正点
上記のように現行会社法では株主総会の開催にあたっては、その場所を定める必要があります(298条1項1号)。そのため物理的な会場を設けた上で一部オンライン化(ハイブリッド型)するしかありませんでした。
そこで今回の産業競争力強化法改正では、上場会社は経産大臣と法務大臣の確認を受けた場合に完全オンライン総会を開催できる旨の定款で定めることができ、そのような会社は会社法の規定を「場所の定めない株主総会」と読み替えることができることとなりました。
また新型コロナウイルスの影響を踏まえ、施行後2年間は定款規定が無くても、経産大臣および法務大臣の確認を受けることによって定款の定めがあるものとみなすことができるようになります。
コメント
今回の法改正の動きを受けて、武田薬品工業やZホールディングスなどはすでに今年の定時総会で完全オンライ化を可能とする定款変更議案を謀る予定とされております。これにより来年度から完全オンラインによる株主総会の開催が可能となる可能性が高くなっております。新型コロナウイルス感染拡大の防止と遠隔地在住の株主の利便性が向上するものと言えます。
しかし一方で株主の円滑なコミュニケーションや権利行使をオンラインでどのように確保していくかなどの課題も残っていると言われております。これらの株主総会を取り巻く現状を踏まえた上で、オンライン総会のシステム導入や定款変更について今のうちから検討しておくことが重要と言えるでしょう。