はじめに
大ヒットアニメの「鬼滅の刃」を連想させる商品を中国から輸入販売していた販売会社の社長をはじめとする男女4人が、不正競争防止法違反(混同惹起行為)の疑いで、7月28日に逮捕されました。
事案の概要
4人が運営していたインターネット販売サイトでは、タオル・マスク・アルコールスプレー・下着等、多種多様な商品のラインナップがあります。
今回問題となった商品は、「鬼退治」や「滅」などと書かれ、「鬼滅の刃」の登場人物が着る羽織の柄に酷似している商品デザインではあるものの、「鬼滅の刃」という直接的な表現は用いられてはいませんでした。
同人らの販売する商品はゲームセンターのクレーンゲームの景品になるなど、広く販売されていました。同人らは、2019年11月から今年4月にかけて約16億6000万円を売り上げていたとみられています。
混同惹起行為とは
混同惹起行為(不正競争防止法2条1項1号)とは、他人の商品表示・営業表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品表示・営業表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為をいいます。
当該行為に該当するかは、
①商品の形態が商品または営業の目印として機能していること
②自己の商品表示・営業表示が需要者の間で広く認識されていること
③相手方の商品表示・営業表示が自己のそれと類似していること
④需要者が両者の商品の間で混同を起こすおそれがあること
以上4つの要件を充足するかにより判断します。
本件でいうと、「鬼退治」や「滅」という文字が商品に書かれキャラクターの着ている羽織に似たデザインが商品を示す目印として機能しており(①)、
「鬼滅の刃」の内容の特徴は世間一般において広く認識されており(②)、
逮捕された者らの販売した商品は「鬼滅の刃」の内容の特徴と類似した「鬼退治」や「滅」という文字を使用し、キャラクターの羽織のデザインと酷似しており(③)、
世間一般において需要者が「鬼滅の刃」と逮捕された者らの商品を混同してしまうおそれがある(④)、
という判断が捜査機関においてなされたと推測されます。
混同惹起行為の適用除外
商品・営業につき、その商品・営業の普通名称、又は、同一あるいは類似の商品・営業について慣用されている商品表示・営業表示を普通に用いられる方法で使用し、又は、そのような表示を使用した商品を譲渡したりする場合には、混同惹起行為にはなりません(不正競争防止法19条1項1号)。
これを普通名称・慣用表示の使用といいます。例えば、食酢の名称として「くろず」を使用した点が問題となった判例では、「普通名称」と認められました。
コメント
社会において注目を集めるコンテンツは、上手く便乗すればビジネスチャンスになることは間違いありません。本件で逮捕された者らが比較的短期間で約16億6000万円もの大金を稼いだことからも明らかです。
しかし、法的問題の有無を勘案することなく走り始めてしまうと、本件のような結末になるでしょう。今は逮捕された段階に過ぎませんが、企業のトップが逮捕されることは、同企業に対して計り知れない悪影響を及ぼしてしまいます。
企業法務従事者としては、コンプライアンスの意識を高く持ち、製品製造・販売にあたり法的問題がないかを今一度確認するとよいでしょう。