はじめに
東京電力福島第一原発における事故後に作業従事者2人に発症した咽頭がんについて、厚生労働省の「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」は9月8日に労災認定しました。
事案の概要
厚労省によると、咽頭がんに限って放射線業務との因果関係を示す知見は海外でも確認できていなかったそうです。そのため、累計の被曝線量が100ミリシーベルト以上かつ被爆から発症まで少なくとも5年以上かかるといった、多くのがんと共通する特徴をもとに判断したそうです。これで東京電力福島第一原発における事故に絡むがんで労災認定された作業員は計8人となりました。
労災保険について
労災保険制度は、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。労災保険は、原則として 一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。なお、労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。そして、事業主が労災保険の加入手続を怠っていた期間中に労災事故が発生した場合、遡って 保険料を徴収する他に、労災保険から給付を受けた金額の100%又は40%を事業主から徴収することになります。さらに、労災保険未加入であると労働基準法に違反するため罰則を受ける可能性もあります。
労災認定の要件
労災には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があるが、本件で問題となった業務災害の認定要件ついて下記で説明します。「業務災害」とは、業務上の事由によって発生した労働者の負傷・疾病・障害・死亡などをいいます。業務災害の労災認定に当たっては、大きく分けて「業務遂行性」と「業務起因性」の2点がポイントとなります。「業務遂行性」とは、労働者が使用者の支配下にある状態において負傷などが発生したことを意味します。たとえば、負傷などがオフィス内で発生した場合には、特に問題なく業務遂行性が認められます。「業務起因性」とは、会社の業務と労働者の負傷などの間に相当因果関係があることを意味します。本件では咽頭がんが原発の作業に起因するものかどうかが問題となり、他のがんとの比較によりこの業務起因性の認定が認められました。
コメント
企業法務従事者としては、労災保険や労災認定について深く理解し、有事の際に適切な対応をとれるようにするべきでしょう。