はじめに
公正取引委員会は28日、企業が証券取引所に新規上場する際の公開価格設定に関する調査結果を発表しました。
主幹事証券会社が一方的に低い価格を設定した場合は独禁法に違反する可能性があるとのことです。今回は企業の新規上場と独禁法上の問題について見ていきます。
事案の概要
公取委の発表などによりますと、昨年6月に閣議決定した「成長戦略実行計画」では日本の新規株式公開の際の初値が公開価格を大幅に上回っており、公開価格で株式を取得した特定の投資家が差益を得る反面、上場会社は直接利益が及ばず、本来はより多額の資金調達ができていたはずとの指摘がなされているとされます。そこで公取委は過去1年間に新規上場を行った企業と主幹事証券会社を対象として書面調査とヒアリング調査を行ったとのことです。その結果、
新規上場会社の約9割が公開価格の設定を主幹事証券会社が主導したとし、
価格決定の過程で一定の割引率を示された際に具体的な根拠の説明を受けた企業は一部にとどまり、主幹事の変更もできなかった例が3割に登ったとされます。以下独禁法上の問題点について見ていきます。
取引妨害
証券会社の関係会社である金融機関やベンチャーキャピタルの新規上場会社に対する影響力を行使し、当該証券会社が他の証券会社が主幹事となることを妨害していた場合、独禁法上の取引妨害となるおそれがあるとされます。取引妨害は独禁法が規制する不公正な取引方法の1つで、「事業者は、自己と競争関係にある他の事業者とその取引相手との取引を不当に妨害してはならない」とされております(一般指定14項)。自由な競争活動によってライバル会社から顧客を奪い合うことは本来なんら問題のない正常な経済活動と言えますが、不当な手段を用いた場合は独禁法上違法となり得るということです。
不当な取引制限
証券会社が、引受手数料の料率について証券会社間で取り決めを行うなどしていた場合、独禁法の不当な取引制限に該当するおそれがあるとされます。不当な取引制限とは、事業者が他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、引き上げ、または数量、技術、製品、設備もしくは取引の相手方を制限するなど相互に事業活動を拘束・遂行することにより一定の取引分野における競争を実質的に制限することとされております(2条6項)。一般にカルテルと呼ばれる行為です。証券会社による企業の上場プロセスという市場での正常な競争が阻害されるということです。
優越的地位の濫用
新規に上場しようとする企業に対して優越する地位にある主幹事証券会社が、公開価格を一方的に設定するなどして新規上場会社に不当に不利益を与えた場合、優越的地位の濫用に該当するおそれがあるとされております。優越的地位の濫用とは、取引の一方の当事者が自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為を言います(2条9項5号)。大規模小売業者が納入業者に無償で従業員を派遣させるといった例が典型例と言えます。優越的な地位の有無について、ガイドラインでは一方の他方に対する取引依存度、市場における地位、取引先変更の可能性、その他取引の必要性などを総合的に判断するとしております。新規に証券市場に上場を希望する企業にとって証券会社は優越的地位にある可能性は高いと言えます。合理的な根拠なく低い公開価格を設定した場合は優越的地位の濫用となるおそれがあるということです。
コメント
日本では企業が新規に証券市場に上場した際の公開価格が初値よりも大幅に低い傾向にあると言われております。これにより最初の公開価格で引き受けた株主が大きな差益を得ることができるということです。このため上場によって本来調達できていたはずの資金が海外に比べて低いとされ近年政府でも問題視しているとされます。公取委もこれを受けて日本の上場プロセスを調査し、上記のように不当な取引制限や優越的地位の濫用など独禁法上の問題点を指摘しております。今後実際にこれらの問題の発生が発覚した場合は、公取委は厳正に対処していくとしており、上場プロセスの公正かつ自由な競争が促進することを期待するとしております。証券会社は公開価格設定の際には当時会社に十分な説明と協議を重ねて合理的な根拠のある価格設定をすることが求められております。新規に上場を検討している場合はこれらの点にも留意して手続きを進めていくことが重要と言えるでしょう。