はじめに
任天堂は10月1日付で発行済普通株式を株式分割する旨発表しました。同社の株式分割は31年ぶりとのことです。今回は株式分割のメリット・デメリットと手続きについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、任天堂は今年10月1日に発行済の普通株式を、1株につき10株に分割するとされます。同社の株価は現在5万7000円台で推移しており、単元株式制度(1単元=100株)を導入していることから1単元あたり約570万円必要となります。そのため同社の株主総会で、株価が高く投資しずらいといった声が寄せられていたとのことです。株式分割により1株あたりの株価が10分の1に抑えられ、株式の購入層を広げる狙いがあるとされます。同社の株式分割は1991年5月以来31年ぶりとなります。
株式分割とは
株式分割とは、発行済の株式を複数に細分化して増加させることを言います。種類株式発行会社の場合は各種類株式ごとに分割比率を変えることも、逆に同じにすることも可能です。たとえば甲種類株式は1株を2株に、乙種類株式は1株を3株にといった分割が可能です。しかし甲種類株式1株を甲種類株式1株と乙種類株式1株といった異なる種類にまたがる分割はできません。株式無償割当は会社自身が保有する自己株式には割当てることはできませんが、株式分割は自己株式も含めて分割することとなります。逆に株式無償割当は異なる種類の株式を交付することも可能です。いずれも資本金の変動なく株式が増加する制度ですが、株式がそのまま増加するか、任意の株式が割り当てられるかの違いがあります。
株式分割のメリット・デメリット
株式分割のメリットとしては、高くなりすぎた株価を下げることができる点が挙げられます。たとえば1株を10株の割合で分割すると、単純計算で株価も10分の1程度に抑えることができます。これによってより多くの投資家が株式を購入することが可能となり、多様な層に投資を促すことができます。また発行済株式数が単純に増加することから株式市場での上場や指定替え要件を満たしやすくなると言われております。株主優待を受けられる株主の増加にもつながり、株式の長期保有を促すこともできます。逆にデメリットとしては、1株あたりの株価が下落することによって株式市場での安定性を損ない、また投資家による投機が増加し、業績と連動しない時価総額の増加を招く可能性もあるとされます。そして単純に株式増加による管理コストの増加も考えられます。
株式分割の手続き
株式分割を行うには、まず取締役会設置会社であれば取締役会決議、取締役会非設置であれば株主総会の普通決議が必要です(会社法183条2項)。ここで分割割合や基準日、効力発生日、分割する株式の種類を決定します。株式分割によって、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある場合は当該種類株主総会決議が必要です(322条1項2号、324条2項4号)。そして基準日を定め、その日の2週間前までに公告をします(124条3項)。株券発行会社の場合、株式併合と違って株券提供公告は不要ですが、分割分の株券を発行する必要があります(215条3項)。効力発生日に株式分割がなされ、その日から2週間以内にその旨の登記をすることとなります。その際の登録免許税は3万円となります。
コメント
本件で任天堂株は現在1株あたり5万7000円台で推移しており、1単元分保有するには約570万円必要とされます。そのため株主からは追加投資しずらく、また新たに株主として参入しにくいと言われておりました。今回の株式分割で10株に分割され、1株あたりの株価も10分の1となり、発行済株式数も約13億株となる見通しです。これによって、より多様な層の投資家の流入が期待できると言えます。以上のように1株あたりの株価が上がりすぎて株式の流動性が阻害されている場合は株式分割を行うことによって適切な株価に調節することができます。またその際の手続きも株主に負担の大きい株式併合と違い取締役会決議で可能となっております。また株価調節だけでなく株式市場での指定替えなどで求められる発行済株式数基準も満たしやすくなります。自社の株式市場での状況を踏まえつつ、これらの制度を利用して適切な株式数を模索していくことが重要と言えるでしょう。