はじめに
コンピュータソフトウェア著作権協会(ACSS)は、同協会会員である株式会社KADOKAWA、株式会社集英社、株式会社小学館の3社(以下、「原告3社」)が「漫画村」運営者に対して、総額19億2960万2532円の損害賠償を求め提訴したことを公表しました。漫画村は一時期有料で市販されている漫画などを違法アップロードし、無料で読むことができるように公開されていたサイトであり、社会問題として取り上げられていました。そこで今回は、訴訟の経緯や詳しい内容について紹介します。
訴訟の経緯
■漫画村開設から閉鎖まで
「漫画村」は、2016年1月に開設された、いわゆる海賊版の漫画ビューアサイトです。登録不要・完全無料をうたい、違法コピーされた漫画・雑誌・小説・写真集等を掲載しており、2018年1月には、その月間利用者数が約9800万人を超えたと言われています。
政府は漫画村による出版社の被害額の大きさを問題視し、緊急措置として、2018年4月17日、漫画村含む3サイトに対してブロッキングを行うよう、インターネット接続業者に要請しました。この要請の結果、運営側もユーザーも漫画村へ接続不能となりました。その後、漫画村はサイト閉鎖となっています。
■刑事での対応
一連の漫画村の事件は、コンピュータソフトウェア著作権協会において、「出版業界をあげて対応すべき最重要案件」と位置付けられ、同協会の会員社が“刑事事件”の共同対応を進め、2019年7月から9月にかけて、6都県警察合同捜査本部により運営者を含む4名が逮捕。その後、福岡地方裁判所にて、いずれも有罪判決が確定しています。
■民事での対応
このように刑事面では一応の解決を見せた漫画村の事件ですが、漫画村では、合計約8,200のタイトル、巻数換算で約73,000巻分のコンテンツを掲載しており、違法掲載によるタダ読みを通じて、民事上の甚大な損害が発生していました。そこで今回、原告3社は、2022年7月28日、漫画村の運営者に対し、約19億3000万円の賠償を求め、東京地方裁判所に共同提訴しています。
漫画村を通じて生じた3社17作品に係る損害算定
今回、原告3社は、漫画村を通じて生じた損害額の根拠として以下を挙げています。
・漫画村の2017年6月~2018年4月までのサイトアクセス総数は5億3781万であったと推測
・アクセスした利用者が1アクセスで漫画コミックス1巻を閲覧したと仮定して当該期間で5億3,781万巻の閲覧があったと推測
・漫画村には最大で7万2577巻が掲載されていたとされており、1巻あたりの平均閲覧数は7,410と推測
その上で、漫画村へ掲載されていた請求対象作品の各巻ごとに平均閲覧数である7,410と各巻ごとの販売価額を乗じてすべて合算し、作品ごとの損害額を算定しています。
コメント
漫画村側は、かつて、“漫画村とは”というページにて、「漫画村は国交のない・著作権が保護されない国で運営されているため、コンテンツをアップロードしてる漫画村運営者にも違法性がない」旨説明していました。当該主張は、2011年12月8日の最高裁判決にて「北朝鮮映画の著作権につき、日本での保護義務がない」とした判決を無理やり引用したものと思われます。
【参考】知的財産権判例ニュース「北朝鮮で製作された映画の無許諾放送につき不法行為の成立が認められた事例」
漫画村の運営者側が今回の訴訟でどのような主張を行うのか、非常に興味深いところです。
なお、今回の訴訟に関し、原告3社は共同コメントを出しており、「クリエイターが安心して新たな創作に挑める環境を守るため、海賊版という犯罪撲滅への重要な一石として、この度の提訴に至った」旨、発表しています。今後の訴訟の動向が注目されます。