はじめに
島根銀行は、8月3日、同銀行の取引先である株式会社浜田昭石に対する債権(貸出金3億1500万円)について、取立不能または取立遅延のおそれが生じたことを文書で公表しました。株式会社浜田昭石は島根県にて事業を行う会社ですが、販売先の相次ぐ倒産やコロナ禍における消費者の行動規制・行動自粛等の影響を受け経営不振に陥っていました。そこで、同社は、島根県中小企業活性化協議会の関与のもと、島根銀行を含む関係金融機関からの金融支援を前提とした事業再生計画を策定し、8月2日、島根銀行を含む全ての関係金融機関が当該再生計画に同意しました。今回は、再生計画提出までの経緯や島根銀行のこれまでの対応について見ていきましょう。
今回の再生支援に至った経緯・背景
島根県浜田市に本社を置く、株式会社浜田昭石および同グループ会社の株式会社浜昭(以下、「再生会社グループ」)は、生活関連サービス業やボウリング場、カラオケボックスなどの娯楽業、産業用燃料販売、ガソリンスタンド等の営業などを幅広く手掛ける企業です。しかし、産業用燃料販売事業主力販売先である土木業界の市場規模縮小を要因として、その売上が年次減少するなど、苦しい状況に立たされていました。それに加え、土木業界の不況に伴う販売先の倒産が相次ぎ、浜田昭石の借入金は増加していました。さらに、近年では新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、生活関連サービス業・娯楽業も大きな影響を受け、抜本的かつ機動的な金融支援が必要な状況となっていました。
提出された再生計画の概要と島根銀行の支援
再生計画の概要は以下となります。いわゆる「スポンサー型事業再生」となります。
(1)島根県内の燃料関連事業者である株式会社松江石油は、スポンサーとして株式会社浜昭の全株式を取得しグループ化すること
(2)株式会社浜昭に対し、株式会社浜田昭石の事業(資産及び負債)を吸収分割により譲渡すること
(3)一般債権者は保護した上で、株式会社浜田昭石は(2)の事業譲渡の対価により関係金融機関等に債務を返済(関係金融機関等は実質的な債権放棄を実施)し、特別清算手続きに移行すること
(4)株式会社浜昭は存続会社となり、松江石油グループとして対外的な信用力等を補完しながら事業継続を行うこと
スポンサー型事業再生の主なメリットとしては、スポンサーの経営資源・知見・ノウハウ・信用の活用、スポンサーの持つ取引先への販路拡大・経費削減等による収益力改善などのシナジーが得られる点が挙げられます。これにより、自主再建のケースと比べて、事業再生の確実性が高まることが期待されます。
島根銀行は本件を2020年12月に新設した企業支援室(取引先の経営課題解決に向け行内外の機能・ネットワークをフル活用する部署)による抜本的な支援が必要な案件と認識し、産業用燃料販売やガソリンスタンド事業等など地域のインフラ事業としての重要性や雇用維持などの重要性を勘案し、適切なスポンサーを探索し、株式会社松江石油を含むスポンサー候補との交渉を実施し、スポンサー候補からの支援等の抜本的な再生への道筋をつけていたとのことです。
コメント
島根銀行は、今回の事業再生の意義について4つのポイントがあるとしています。1つは地域インフラの維持という意義です。ガソリンスタンド事業や産業用燃料販売事業は、重要な地域インフラとして、地域の生活機能の維持には欠かせない事業であることが念頭に置かれています。再生支援の実施により、地域の生活機能は維持され、住民に負担が生じることを避けられます。2つ目は、雇用の維持です。本件再生支援の実施により、再生会社グループの雇用は維持され続けます。3つ目は一般債権者の保護が果たされていることです。今回の再生支援は私的整理のスキームであり、再生会社グループの一般取引先に影響を与えることがないのがポイントです(一般債権は全て保護されるそうです)。最後に4つ目は、存続会社である株式会社浜昭の将来的な支援体制の強化です。島根県内の同業スポンサーの支援により、株式会社浜昭は更に強固な営業体制での事業運営が可能となります。このように、今回の事業再生はメリットが多く確認されることから、銀行の同意を得て実施されることとなっています。