◆はじめに◆
今回は、締結する場面も多い販売店契約と代理店契約について、混同されやすい両者の違いと、締結にあたっての注意点についてまとめました。
◆販売店契約・代理店契約◆
◆概要
どちらも販売拡大活動を行うための契約である点で類似していますが、両者には違いがあります。
◆販売店契約(Distributorship Agreement)
販売店(Distributor)が、供給者から商品を買い取り、それを客先に販売する契約です。
販売店と供給者との商品取引は、いわゆる「売り切り・買い切り」、
すなわち相対(あいたい)取引であり、それによって生じる損益は、全て販売店に帰属します。
・損益、危険の帰属先:販売店
・販売店の利益:買主への売掛代金
・商品の引渡し:販売店から買主へ
・代金の支払い:買主から販売店へ
供給者――――――――――販売店
販売店契約 |
商品の個別の売買契約 |
|売買契約
|
買主
供給者との間の販売店契約を基に、供給者と商品の個別の売買契約を結び、購入した商品を契約当事者として第三者へ販売します。
その際の価格は、原則として販売店が自由に設定することができます。
例えば、販売した商品の代金回収責任は、全て販売店が負うことになります。
売り主 (Seller)に対し、買い主 (Buyer)である販売店は独立した立場にありますが、両者の間で取扱商品の制限、最低販売高、商品在庫の保有、補修部品やアフターサービス機能の確保や宣伝費負担などを特約することがあります。
◆代理店契約(Agency Agreement)
代理店(Agent)が、本人(Principal)である供給者の代理人として、本人の商品を広く紹介し、販売拡大活動を行う契約です。
代理店は商品を供給者から買い取ることはありません。
・代理店の役割:代理人、売買契約の当事者ではない仲立ち
・客先との売買契約の当事者:売主(商社、メーカー等)・買主(客先)
・損益、危険の帰属先:売主
・代理店の利益:業務実績に応じて売主から手数料(Agent Commission)を受け取る
・商品の引渡し:売主(本人)から客先へ直送
・代金の支払い:客先から売主(本人)へ直接支払う
供給者―――――――代理店
| 代理店契約 |
| |売買契約
| |
┗―――――――――買主
契約の効果帰属
【注意】
◆「販売代理店契約」
国内の契約では、販売店契約の場合も、代理店契約の場合もどちらも「販売代理店契約」と一括して呼ぶことがあります。
しかし、その法的な意味合いや内容は、上記のようにかなり異なるものです。
契約書の表題がどうであろうとも、内容をよく見てみないと、販売店契約なのか、代理店契約なのかを把握することができない状態になっていますので、注意して契約を読む必要があります。
◆「特約店契約」
「特約店契約」と呼ばれるものもありますが、これは契約類型ではなく単なる名称です。
内容は販売店契約、代理店契約、仲介契約など様々であり、内容を確認してどの契約類型にあたるのか、判断する必要があります。
・独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
代理店契約と販売店契約の相違点:日本
・寺村総合法務事務所
販売代理店契約のポイント1(契約書解説)
◆注意すべき取決事項◆
◆販売店契約
◇継続的な売買基本契約と類似の事項
販売店契約は、上記の通り、供給者と販売店との間の継続的な「売買=卸し売り」という性格が強いことになります。
従って、相当部分が売買基本契約(=取引基本契約)に類似することとなりますので、販売店契約においても、「個別契約」に基づき個々の取引が成立していくこととなります。
・代金の支払時期と目的物の交付時期の関係
・所有権の移転時期
・危険負担の移転時期
・瑕疵担保責任の範囲・検査
◇商品の欠陥、数量不足、買主からのクレーム対応
販売店が供給者から商品を購入して再販売するため、
製品に欠陥や数量不足があった場合の対応や、クレーム対応について定めておくことが必要です。
また、納品後、販売店側が商品の欠陥や数量を検査、報告する旨の規定も入れる必要があります。
◇任命条項
供給者が、販売店を、供給者の製品を独占的または非独占的に取り扱う正規の販売店に任命する旨の定めです。
ここでは、特に、独占的なのか、非独占的なのかを明記することが肝要です。
独占的であれば、供給者は、他の販売店を任命することができません。
普通、独占的な販売店とする場合は、地域を分けることが行われますが、地域分けをせずに総販売店として任命する場合もあります。
なお、厳格な地域割りをする場合は、独禁法違反となる可能性がありますので、注意が必要です。
◇与信管理
供給者と販売店との間の取引は、継続的な売買取引となるため、
与信管理の方法に関する事項を定めることも重要です。
与信管理に関する条項
・所有権移転の時期の定め
・期限の利益の喪失条項
・契約の解除条項
(債務不履行がある場合、一定期間の催告期間をおいて解除できること。
破産・民事再生あるいは会社更生等の申立を受けた場合等に解除できること。)
・商品供給停止条項
(支払停止、支払不能、債務超過に陥る可能性がある場合、相当の担保提供、若しくは代金の支払がなければ、商品の供給を直ちに停止すること。)
・連帯保証人条項
(連帯保証人を定め、本契約にかかわる債務につき連帯保証をすること。)
◆代理店契約
◇代理店の権限の範囲
・契約締結権原の有無
①供給者と顧客との間の売買契約を成立させる権限を持っている場合。
②供給者と顧客との間で売買契約を締結するか否かの決定権限は本人たる供給者にあり、代理店は単なる仲介をするに過ぎない場合。
・代理店が顧客から代金を受領する権限を有するか。
仮に代金を受領する権限がある場合、代理店の手数料との相殺が可能かどうか。
◇商品の説明義務の範囲
代理店は売買契約の当事者ではないため、原則として、商品についての担保責任などは追及されませんが、
代理店が顧客へのきちんと説明しなかった場合、代理人が売主と同視される危険性もあります。
そこで、顧客に対する説明の内容・範囲、仮に賠償問題が起こった場合に供給者と代理店の責任分担の規定を定めておくべきでしょう。
・寺村総合法務事務所
業務委託契約など契約類型別の解説と留意点
◆雛型集◆
◆作成上の注意点◆
販売店契約を締結するにあたり、独占禁止法違反にならないよう、注意が必要です。
独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とした法律です。公正かつ自由な競争を阻害するような行為を禁止し、罰則等を定めています。
特に、以下の3点は違反しがちな点です。
◆再販売価格維持行為
小売業者等に自社商品の販売価格を指示し、これを守らせることを再販売価格維持行為といいます。競争手段の重要な要素である価格を拘束するため、原則として禁止されています。また、指定した価格で販売させるために、これに従わない小売業者に経済上の不利益を課したり、出荷を停止することも禁じられています。
・公正取引委員会
よくある質問コーナー(独占禁止法)Q12販売価格の指定
◆販売地域の限定
市場における有力なメーカーが流通業者に対し一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限し、これによって当該商品の価格が維持されるおそれがある場合には、不公正な取引方法として独占禁止法上問題となります。
◆販売方法の制限
インターネット販売を禁止する場合、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のための合理的な理由があると認められない場合には、取引先事業者の事業活動を不当に制限するものとして、独占禁止法上違法となります。
・公正取引委員会 相談事例集
1 医療機器メーカーによる通信販売の禁止
合理的理由が認められ、独占禁止法に違反しないとされた例
・公正取引委員会 相談事例集
2 医薬品メーカーによる対面での販売の義務付け
独占禁止法に違反するおそれがあるとされた例
◆おわりに◆
締結する機会が多い契約でありながら、注意する点の多い契約でした。
「販売代理店契約」という名称のように、実務の慣習と、正確な法的意味が異なることもあります。法務担当者は、しっかりと契約の中身を吟味し、契約の正確な内容を把握した上で、契約書の審査を行いましょう。
また、思わぬ規定が独占禁止法に違反している場合もあります。
独占禁止法の規定や解釈についてもアンテナを張り、適法な契約となるように十分注意しましょう。
以上