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中小企業によるM&Aトラブルを予防、「M&A支援機構登録制度」とは?

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はじめに

中小企業庁は、令和4年度のM&A支援機関に係る登録申請受付(令和4年度公募)を9月21日から開始しました。合わせて、令和3年度に登録されたM&A支援機関のうち、令和4年度も登録を継続したM&A支援機関の情報の更新も行いました。当該登録制度は、中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するため、令和3年8月に創設されたものとなります。本記事では、M&A支援機関登録制度の概要についてご紹介します。
 

M&A支援機関登録制度の概要

日本には多数の中小企業が存在しますが、後継者不足や特許を生かし切れていない等の理由により、M&A実施の動きが活発化しています。その一方で、中小企業とM&A仲介業者との間にある情報格差により、中小企業側の本意に沿わないM&Aが行われてしまうという問題が顕在化していました。 また、M&Aに関わる士業等専門家については、法令において資格要件・業務内容・善管注意義務や刑罰等が法令上明確にされているのに対し、M&A仲介業者に関しては、許可制・免許制等は採用されておらず、業界全体における一般的な法規制も存在していません。そのため、M&A仲介業者ごとに、そのマッチング能力や交渉ノウハウ、財務・税務・法務等の専門知識にバラつきがあり、適切に業務を進められていない事例も散見されました。 そこで、中小企業庁は、M&A推進計画をまとめ、「経営資源の散逸の回避」、「生産性向上」、「リスクやコストを抑えた創業」等の実現を図っています。 1.M&A支援機関に係る費用の補助 あらかじめ、M&A 支援機関登録制度に登録した機関の提供するM&A 支援に係る費用を補助の対象としています。 2.登録制度の対象 本登録制度で登録できるのは、ファイナンシャルアドバイザー業務又はM&A仲介業務を行う者に限られます(業種を問わない)。 3.登録要件 登録要件として、「中小M&Aガイドラインの遵守を宣言すること」が規定されています。具体的に申請時に求められるのは以下になります。 ・申請者の基本属性情報 ・要件充足(中小M&Aガイドライン遵守の旨)の宣誓 ・ネガティブ事項への非該当性(国予算関連の処分を受けた実績がないこと、反社会的勢力に該当しないこと等)
 

中小M&Aガイドラインの記載概要

上述のように、登録要件として、「中小M&Aガイドラインの遵守を宣言すること」が求められています。また、同ガイドラインには、様々な事項が定められていますが、各事項について、その規定により求める強度が異なることを踏まえ、登録要件の取扱いに差を設けながら遵守を求めるとしています。以下に、登録時に高い強度で遵守が求められている事項をご紹介します。 ■仲介契約・FA 契約の締結 ・契約の重要事項の説明(仲介・FA、専任、テール等) ■バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価) ・評価手法等についての説明 ・仲介者による DD の非実施 ・士業等専門家等の意見聴取に係る助言 ・仲介者による簡易評価についての説明 ■デュー・ディリジェンス(DD) ・仲介者による DD の非実施 ・士業等専門家等の意見聴取に係る助言 ■最終契約の締結 ・契約内容の漏れについての再確認の催促 ■クロージング ・段取り整理、入金確認 ■仲介者における利益相反のリスクと現実的な対応策 ・仲介者であることの説明 ・バリュエーション、DD の非実施 ・士業等専門家等の意見聴取に係る助言 ■専任条項の留意点 ・情報管理に配慮した上でのセカンドオピニオンの許容 ・専任条項の期間(最長 6 ヶ月~1 年以内を目安) ■テール条項の留意点 ・テール条項の対象の限定 ※契約終了後の一定期間内に譲渡側が譲受側との間でM&Aを行った場合でも、M&A仲介業者が手数料を取得できる旨を規定した条項
 

コメント

今回ご紹介した登録制度は、中小企業やM&A仲介業者を念頭に置いた制度ではありますが、登録要件として強く遵守が求められる事項を眺めていると、企業が仲介業者を利用してM&Aを行う時にトラブルになりやすいポイントが透けて見えて来ます。特に法務の視点で、やはり興味深いのは、専任条項の期間やテール条項の対象についてです。 ・長期間にわたる専任条項(同時並行して他のM&A仲介業者への依頼を行うことを禁止する条項)の効果により、他のM&A仲介業者からのセカンドオピニオンを得られず、契約中のM&仲介業者の助言の妥当性を判断できなくなった結果、適切なM&Aの判断を行えなくなった事例 ・テール条項(M&A仲介に係る契約終了後一定期間内にM&Aが成立した場合、契約終了後であっても、M&A仲介業者が手数料を取得する条項)の対象となる譲受事業者の範囲を契約上、限定しなかった結果、M&A仲介業者が関与・接触していない事業者とのM&A成立についても手数料の支払いを求められ、トラブルとなった事例 などが少なくなく、問題視されているようです。 法務としてM&A仲介契約を審査する際、どこに力点を置いてリスクのアンテナを張るべきかを検討するうえでも、「中小M&Aガイドライン」は参考になるところがあるかもしれません。
 
【関連リンク】 中小M&A支援機関に係る登録制度の概要 中小 M&A ガイドライン

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