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東大阪労基署、プレス機の使用停止命令に従わなかった金属製作所を送検

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はじめに

東大阪労働基準監督署は、令和4年9月29日、プレス機械の使用停止命令に従わなかったことを理由に、有限会社三協金属製作所と同社代表取締役を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)および第98条(使用停止命令等)違反の疑いで、大阪地検に書類送検しました。 今回の送検に先立ち、三協金属製作所に東大阪労働基準監督署は、同社の保有するプレス機械9台について、「法律上認められていない手払い式安全装置を設置していたのみで適法な安全措置を講じていない」として、労働安全衛生規則第131条(プレス等による危険の防止)違反を理由にプレス機械の使用停止命令を発令していました。
 

労働安全衛生法第20条

労働安全衛生法は「職場における労働者の安全と健康を確保」するとともに、「快適な職場環境を形成する」目的で制定された法律です。また、その手段として「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」、「責任体制の明確化」、「自主的活動の促進の措置」など総合的、計画的な安全衛生対策を推進するとしています。 その中で、同法第20条は、事業者の講ずべき措置等について規定しており、同条1号ないし3号において、①機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険②爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険③電気、熱その他のエネルギーによる危険について規定してあります。

第二十条(事業者の講ずべき措置等)  事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。 一 機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険 二 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険 三 電気、熱その他のエネルギーによる危険

第20条に違反した場合、第98条1項により、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、違反した事業者・注文者・機械等貸与者又は建築物貸与者に対し、作業の全部又は一部の停止、建設物等の全部又は一部の使用の停止又は変更その他労働災害を防止するため必要な事項を命ずることができるとしています。 令和2年度の労働基準監督年報によりますと、令和2年度の使用停止等処分事業場数は、合計4,604件。うち、三協金属製作所と同業の金属製品製造業は、309件と建築工事業(ダントツ一位の2,484件)に次ぐ二番目の多さとなっています。 なお、使用停止命令に従わない場合は、第119条1号に基づき、6ヶ月月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。また、第122条により、法人の代表者も同様の罰則を科されます。
 

プレス機使用で企業が負うリスク

プレス機による事故の代表例が“はさまれ・巻きこまれ”です。厚生労働省が発表した令和3年度の「業種、事故の型別死傷災害発生状況」によると、全産業での“はさまれ・巻きこまれ”災害の発生件数は14,020件にのぼります。 職場のあんぜんサイト このように、プレス機による死傷災害は後を絶たない状況ですが、もしも事故が発生し、従業員が死傷してしまった場合、貴重な人材の喪失、遺族からの多額の損害賠償請求などのリスクに直面することになります。 今回問題となった安全装置の設置などのハード面の対策と共に、人為的なミスを予防するための社員教育・注意喚起体制の整備等、ソフト面での対策も必要となってきます。
 

プレス機による労災に関する代表的裁判例

プレス機による労災事故に関する代表的な裁判例としては、東京地裁平成27年4月27日の判決が挙げられます。これは、被告会社が保有する工場の工場長が、プレス機を用いた作業中にプレス機に左手を挟まれて複数の指を切断し後遺障害を負った事案です。工場長は、会社側の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めましたが、裁判では、以下のとおり、計約3951万円の損害が認定されています。 (1)入院慰謝料 →179万円 ※入院治療を受けたことにより被った精神的損害 (2)休業損害 →242万円 (3)後遺障害慰謝料 →830万円 ※後遺症が残ったことにより被った精神的損害 (4)後遺障害逸失利益 →2700万円 ※後遺症により労働能力が低下しなければ、将来得られたであろう利益 【過失認定上、重視された事実】 ・プレス機に安全装置がないことを認識しながら特段の措置をとらなかった ・プレス機には安全カバー安全カバーや自動停止装置が取り付けられていなかった 【過失相殺された、工場長側の事情】 ・プレス機を止めてから対応すべきだった作業を、機械を止めずに進行した ・会社に対し、積極的に安全カバーや自動停止装置の取り付けを要請しなかった ・注意力の低下を招くほどの疲労を感じていたにも関わらず、プレス機の操作を行った
 

コメント

上述のように、今回の送検は、プレス機に適切な安全措置を講じていないこと、そのことを理由とした使用停止命令に従わなかったことに起因しています。一方で、資金繰りに苦しむ多くの中小企業にとって、新たに設備投資を行うこと、事業上の主力となる機械を停止することは、いずれもビジネス上の大きなダメージとなります。今回、三協金属製作所がどのような背景から、使用停止命令違反を行ったかは現時点で定かではありませんが、こうしたビジネス面での事情があった可能性が推測されます。 「事業が苦しいときに、会社として、経済的損失を受け入れて法令遵守を優先させられるか」。コンプライアンス関連業務を担う法務パーソンにとって、最難関の課題と言えると思います。
 

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