Quantcast
Channel: 企業法務ナビ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2999

「家賃滞納による建物明渡みなし条項」の適法性、12月に最高裁が判断

$
0
0

はじめに

家賃債務保証業を営むフォーシーズ株式会社が家屋賃借人と締結している保証委託契約の一部の条項が消費者契約法に違反しているとして、特定非営利活動法人消費者支援機構関西とフォーシーズとの間で争われていた訴訟の最高裁判決が12月12日に言い渡されます。問題となっている契約(以下、「本件契約」)では、「2ヶ月以上賃料支払いを怠り、本人とも連絡が取れず、相当期間建物を利用しておらず、なおかつ使用再開の意思が見えないときに建物の明け渡しがあったものとみなされる」条項などが含まれていました。本記事では、これまでの経緯をまとめます。
 

問題視された条項と消費者契約法

今回、消費者支援機構関西が問題視し、主な争点となったのは、以下の条項です。 (読みやすいよう、一部補足・補完・省略してあります。)

●第18条(賃借人の建物明渡協力義務) 2.フォーシーズは、下記いずれかの事由が存するときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明け渡しがあったものとみなすことができる。 ②賃借人が賃料等の支払を2ヶ月以上怠り、フォーシーズが合理的手段を尽くしても賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するとき 3.賃借人は、本件建物を明け渡したとき(前項により明け渡しがあったものとみなされる場合を含む。)に、本件建物内(中略)した残置した動産類については、家屋賃貸人及びフォーシーズにおいて、これを任意に搬出・保管することに意義を述べない。   ●第19条(搬出動産類の保管義務の範囲及び処分) 1.前条の規定によりフォーシーズが搬出して保管している動産類のうち、賃借人が当該搬出日から1ヶ月以内に引き取らないものについては、賃借人は、当該動産類全部の所有権を放棄し、以後フォーシーズが随意にこれを処分することに異議を述べない。 2.賃借人は、フォーシーズに対し、前条の規定によりフォーシーズが搬出して保管している動産類について、その保管料として月額1万円(税別)を支払うほか、当該動産類の搬出・処分に要した費用を支払うものとする。

 
本件では、家賃保証会社であるフォーシーズが勝手に賃借人の所有物である家財を処分するという、一般的に不法行為(自力救済行為)に該当するとされる行為が、契約上の家財処分条項を理由に認められるか否かが問題となりました。
 
原告である消費者支援機構関西は、本件契約の第18条2項及び3項、第19条の規定(以下、「本件条項」)が、消費者契約法第8条1項3号にて無効とされる「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する民法の規定による責任の全部を免除する条項」や法第10条で無効とされる「民法、商法(明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当するとして、平成28年10月24日、以下を求め、大阪地裁に提訴しました。 ・本件条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め ・本件条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄及びフォーシーズの従業員らへの指示を徹底する旨の書面の配布
 

一審の判断

令和元年6月21日、大阪地方裁判所は、本件条項が消費者契約法第8条1項3号に該当するとして、原告である消費者支援機構関西の請求を一部認容し、フォーシーズに対し、本件条項を含む契約の申込み又は承諾の意思表示の差止め、本件条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙の廃棄等を命じました。
 

■消費者契約法第8条1項3号に該当すると判断した理由

判決理由をまとめると以下のようになります。 (1)本件条項に基づく賃借人の占有排除は原則として不法行為に該当する ・本件条項は、いまだ家屋賃貸借契約が終了しておらず、賃借人の占有が失われていない場合でも、賃借物件内の動産類の搬出・保管を可能とするものだが、それは、家屋賃貸借契約が継続中で、家屋賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で、賃借人の占有を排除し、家屋賃貸人に占有を取得させることにほかならず、自力救済行為にあたる。 ・こうした自力救済行為は、本件契約の定めいかんに関わらず、法的手続によることのできない必要性緊急性の存するごく例外的な場合を除いて、不法行為に該当する。 (2)本件条項は、家屋賃貸借契約が終了しておらず賃借人が賃借物件に対する占有を失っていない場合でも、賃借人の動産類を搬出・保管し、1ヶ月以内に引き取らないものを随時処分できる内容 (3)本件条項は、上記の動産類の搬出・保管・処分等によって賃借人が法律上保護された利益を侵害された場合であっても、これを理由とする損害賠償請求権を放棄させる趣旨を含むもの (4)それはすなわち、フォーシーズ等による動産類の搬出・保管・処分等が、自力救済行為として不法行為に該当する場合であっても、賃借人にこれを理由とする損害賠償請求権を放棄させる趣旨も含むもの したがって、本件条項は、各条項が相まって、消費者契約法第8条1項3号に該当する無効な条項であるということができる。
 

二審の判断

令和3年3月5日、大阪高等裁判所は、本件契約第18条2項2号は消費者契約法第8条1項3号、同法第10条のいずれにも該当しないとして、フォーシーズの敗訴部分を取り消し、当該部分につき消費者支援機構関西の請求を棄却するとともに、消費者支援機構関西の控訴を棄却しました。
 

■本件契約第18条2項2号が消費者契約法第8条1項3号に該当しないと判断した理由

判決理由をまとめると以下のようになります。 (1)本件条項は、いずれもフォーシーズに各条項所定の一定の権限(賃借物件の明け渡しがあったものとみなす権限、動産類を搬出・保管・処分する権限)を付与するもの (2)本件契約第18条2項にいう「賃借人が明示的に異議を述べない限り」との規定は、賃借人が明示的に異議を述べることによりフォーシーズがその付与された権限、すなわち、賃借物件の明渡しがあったものとみなすことができる権限の行使を阻止することができる旨を定めたものにすぎない。 (3)また、本件契約第18条3項及び第19条1項にいう「異議を述べない」との規定は、フォーシーズがこれらの条項により付与された権限を行使することについて賃借人に異議がないことを確認する趣旨にすぎないと解するのが自然な解釈。 (4)上記(2)や(3)を超えて、下記の場合に、フォーシーズが賃借人に対して負うこととなる不法行為に基づく損害賠償責任の全部を免除する趣旨と読み取ることはできない。 ①第18条2項2号に定める4要件(以下、「本件4要件」)を満たさず、又は賃借人が明示的に異議を述べているにも関わらず、賃借物件の明け渡しがあったものとみなして、動産類を搬出・保管・処分する権限を行使した場合 ②動産類を搬出・保管・処分する権限を行使するに際し、故意又は過失により賃借人に損害を与えた場合 したがって、本件契約第18条2項2号は、消費者契約法第8条1項3号に該当しない。
 

■本件契約第18条2項2号が消費者契約法第10条に該当しないと判断した理由

(1)本件契約第18条2項2号は、本件4要件を満たすことで、賃借人が既に賃借物件の使用を終了して賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において、賃借人が明示的に異議を述べない限り、フォーシーズに対し賃借物件の明け渡しがあったものとみなし、家屋賃貸借契約を終了させる権限を付与するもの。 (2)賃借物件の明け渡しとみなされた場合には、賃借人は、賃借物件内に留置した動産類を搬出・保管・処分されることを甘受すべき地位に立つことになる。 (3)それは、民事訴訟手続及び民事執行手続を経ずに賃借物件内の動産類を搬出・保管・処分されうるという面で、民放・商法その他の法律の任意規定の適用による場合に比べ、消費者である賃借人の権利を制限するものといえる。 (4)しかし、本件4要件が満たされている状況で、賃借物件の明け渡しとみなされ、賃借物件内の動産類を搬出・保管・処分されたとしても、賃借人の受ける不利益は必ずしも大きいとはいえない。 (5)他方で、本件4要件が満たされている状況では、法的な意味における賃借物件の明渡しが実現されない可能性が高い。そして、現実に、法的な意味における賃借物件の明渡しが実現されない事態は少なくないと認められる。 (6)そうした状況下で、本件条項により速やかに賃借物件の明渡しを実現し、フォーシーズは未払賃料等及び賃料等相当損害金の支払義務を免れることで得られる利益は大きい。 よって、本件契約第18条2項2号をはじめとする本件条項は、相応の合理性を有するものということができる反面、これによる原契約賃借人の不利益は限定的なものにとどまるものということができる。そのため、本件契約第1 条2項2号が信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。
 

コメント

今回の訴訟は、不動産賃貸事業を行う企業の法務パーソンにとって、非常に興味深い内容となっています。 賃借人が家賃滞納、家賃回収の電話をしても賃借人は一切連絡に応じなかった事案で、賃貸人側が不動産収益が落ちてしまうことをおそれ、カギを替えた上で家財を処分したところ、実は賃借人は長期入院していたにすぎず(未だ賃貸目的物で住む意思があり)、損害賠償請求されたケースなどもあります。賃貸業務を行う企業にとって、本件は他人事ではありません。 法的手続きを踏まえずに自らの手によって家財を処分する等の行為を、自力救済といいますが、これは原則として禁止すべきというのが法律の考えであり、例外的に自力救済は「法律の定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるにとどまる」とされています。そして、賃貸物件から収益を得られないことが上記緊急やむを得ない特別の事情に該当する可能性は高いとはいえないため、原則どおり法的手続きをとることとなると思います。 しかし、大量の消費者に対して大量の賃貸物件を貸し出すことが想定されるビジネスモデルの場合、消費者一人ひとりに対して法的手続きをとることは迂遠かつ煩雑です。そのため、契約による合意で自力救済できるようにしてしまおうという考えが根底にあったのだと思われます。 最高裁の判決によっては、契約書の雛形の変更に始まり、契約を締結済の賃借人との契約の巻き直しなどを強いられる企業も出て来ると思います。12月12日の判決が待たれます。
 
【関連リンク】 ・消費者支援機構関西とフォーシーズ株式会社との間の訴訟に関する判決について(消費者庁)消費者支援機構関西とフォーシーズ株式会社との間の訴訟に関する控訴審判決について(消費者庁)

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2999

Trending Articles