はじめに
出版大手「KADOKAWA」は2日、取締役の過半数を社外取締役とし、指名委員会等設置会社へ移行すると発表しました。6月の定時総会で承認を得る予定とのことです。今回はガバナンス強化に有効な指名委員会等設置会社について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、東京五輪をめぐる汚職事件により角川歴彦前会長(79)が逮捕・起訴され同社ではガバナンス検証委員会が設置されておりました。同検証委員会の調査報告で、同社では角川前会長の意向が反映された「会長案件」が存在し、社内ではそれに異を唱えることが困難であったこと、また知財法務部は本取引のリスクについて認識していたものの、コンプライアンスが軽視されていたため止めることができなかったことなどが指摘されたとのことです。これを受け同社では、ガバナンスとコンプライアンス体制を強化すべく、取締役の過半数を社外取締役とし、現在の監査等委員会設置会社から指名委員会等設置会社に移行することを取締役会で決議したとされます。同社では企業風土の改善と信頼回復に務めるとしております。
指名委員会等設置会社とは
日本での従来からの企業設計では、株主総会、取締役会、監査役が設置されてきました。これに対し欧米、特に米国では各委員会が設置されており、ガバナンス面でも投資家から信頼された企業形態と言えます。そこで日本でも平成17年の商法改正で導入され、平成26年改正で現在の指名委員会等設置会社となりました。指名委員会等設置会社では指名委員会、監査委員会、報酬委員会が設置され、指名委員会が株主総会に提出する役員の選解任議案を決定し(会社法404条1項)、監査委員会が取締役や執行役の職務を監査し(同2項)、報酬委員会が取締役や執行役の個人別報酬を決定します(同3項)。そして執行役が業務執行を行います(418条)。このように所有と経営が分離された株式会社で、さらに経営から業務執行を分離して監督と経営を合理化した企業形態と言えます。
指名委員会等設置会社の機関設計
指名委員会等設置会社は、上でも述べたように取締役会に加えて指名委員会、報酬委員会、監査委員会、執行役が存在し、さらに会計監査人の設置が必須となります。会計参与については設置は任意です。各委員会は最低3人必要で、取締役の中から取締役会決議によって選任されます(400条1項、2項)。そして各委員会の委員のうち過半数は社外取締役である必要があります(同3項)。業務執行を担う執行役も取締役会で選任し、複数選任する場合は代表執行役も選定することとなります(420条)。通常の株式会社と異なり、取締役の任期は1年となります(402条7項)。定款で任期をさらに短縮することも可能ですが伸長することはできないとされております。これにより役員は毎年定時総会で信が問われるということです。
社外取締役の要件
上記のように指名委員会等設置会社では社外取締役が必須となります。それではどのような人が社外取締役と言えるのでしょうか。会社法では社外取締役の要件が規定されており(2条15号)、それによると現在の要件と過去の要件に分けられております。まず現在の要件として、その者が現在、当該会社または子会社の業務執行取締役等でないこと、親会社等または親会社等の取締役、執行役、支配人、使用人ではないこと、兄弟会社の業務執行取締役等でないこと、当該会社の取締役や執行役、支配人、重要な使用人等の配偶者または2親等内の親族でないこととされます。そして過去の要件として、その者が過去10年間当該会社または子会社の業務執行取締役等でなかったこと、過去10年以内に取締役、会計参与、監査役であった場合は、その就任時から10年以内に業務執行取締役等でなかったこととされます。
コメント
今回の東京五輪を巡る汚職事件の調査報告で、KADOKAWAはいわゆる会長案件の違法性やリスクを認識しつつも、その企業風土から事前に止めることができず今回の不祥事に至ったと指摘されております。これを受け現在の監査等委員会設置会社から指名委員会等設置会社に移行しガバナンスとコンプライアンスを強化する方針としております。以上のように指名委員会等設置会社はガバナンス面で評価が高く、投資家からも信頼が得やすいとされます。しかし上記のように機関設計上役員数が多くなり、報酬などの面でコスト負担が大きくなります。また社外取締役の要件も厳しく、確保するのが容易ではないと指摘されております。日本取締役協会の調べでも2022年時点で指名委員会等設置会社は85社と採用数は低調と言えます。それだけにあえて採用することで、ガバナンス強化の姿勢を示すことに繋がるとも考えられます。自社の信頼回復を検討する際には選択肢に含め柔軟に検討することが重要と言えるでしょう。