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WEBテストの替え玉受検、初公判で懲役2年6ヶ月求刑

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はじめに

2023年の就職活動がスタート。新型コロナウイルス感染拡大の影響でオンラインでの選考も増えてきましたが、応募者の能力を図るため、多くの会社で採用時にWEBテストを導入しています。そのWEBテストで「替え玉受検」をしたとして逮捕された男の初公判が3月8日に開かれました。
 

事件の経緯

報道などによりますと、男は京都大大学院に在学中だった2019年3月ごろからTwitter上で「WEBテスト代行(2科目4000円)」をうたって受検代行の依頼を募集していました。2022年4月、男は、就職活動中の女子大学生の依頼を受け、依頼者の受検IDとパスワードを入力し、依頼者本人になりすましてWEBテストを不正に受検したといいます。 2022年11月、警視庁は男を私電磁的記録不正作出・同供用(刑法161条の2第1項・3項)の疑いで逮捕したと発表しました。依頼した女子大学生も共犯容疑で書類送検され、容疑を認めているということです。WEBテストの受検代行での摘発は全国で初とみられています。 男は、学歴や過去に試験に通過した有名企業の名前を挙げて実績を強調。2019年3月~2022年7月までの間に受検した企業は数千社にのぼり、数百万円の報酬を得ていたといわれています。 3月8日、当該事件の初公判が開かれ、男が起訴内容を認めました。 弁護側は執行猶予付きの判決を求めましたが、検察側は懲役2年6月を求刑し即日結審。判決は28日に下されます。
 

採用時のWEBテストは不正の温床

就活生のほとんどが経験する、WEBテスト。企業側からすると、受検会場や試験監督を用意することなく、多人数の能力を短期間に測ることができるメリットがあります。その一方で、替え玉をはじめ、カンニングなどの不正受検の可能性がしばしば指摘されてきました。 株式会社ディスコが運営する“キャリタス就活”が行った調査では、自身が「不正の経験がある」「友人などの受検を手伝った 」と回答した学生がそれぞれ1割ずついることがわかっています。さらに、「周り(知り合いや友人)がやったのを知っている 」「噂レベルで聞いたことがある 」と回答した学生はそれぞれ約3割にのぼることがわかりました。 7月1日時点の就職活動調査(株式会社ディスコ キャリタスリサーチ) 今回も摘発されたように、WEBテストの替え玉受検を行った者は電磁的記録不正作出及び供用罪(刑法161条の2第1項・3項)に問われます。その場合、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科せられます。

刑法161条の2 1 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 3 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。

 

替え玉受検が判明した後の企業側の対応

では、採用した社員が替え玉受検代行を利用して、採用試験に合格したことが判明した場合、企業側はどのような対応ができるのでしょうか。替え玉受検による合格は、正規の選考試験を通過していないとみなせることから、不正が判明したタイミングにより、内定取消や懲戒解雇といった処分を下せる可能性があります。もっとも、就業規則にその根拠となる規定があるかないかで、とれる対応が大きく変わって来ます。 一般的に、就業規則上、「重要な経歴を偽って採用されたとき」、「重大な虚偽の届出又は申告を行ったとき」には懲戒解雇に処せる旨、定めている企業が多いと思います。 学歴や経歴詐称による解雇を有効とした大阪高裁判決 昭和37年5月14日、東京地裁判決 昭和55年2月15日、大阪地裁判決 昭和62年2月13日、東京地裁判決 平成16年12月17日などに照らすと、懲戒解雇ができるか否かの判断基準は、 (1)真実を告知していたなら(本人が受検していたなら)採用しなかったと思われる重大な詐称であったか (2)詐称により、会社の人事の適正配置を誤らせたか などに照らして検討することになりそうです。 具体的には、替え玉受検時の成績と本人受検時の成績の差異がどれほど生じるのか、当該差異が採用しないという判断に繋がるものか否か(選考時にWEBテストがどれほど重視されていたか)、WEBテストのスコアが実際と異なるものであったことで配属等に変化を生じさせたかなどを精査することになります。 この点、一般的な企業におけるWEBテストの選考ウェイト、配属の判断に占めるウェイトなどを考えると、懲戒解雇にはある程度慎重にならざるを得ないと考えられます。 一方で、今回の事件のように、替え玉受検の代行依頼で逮捕されるケースもあります。その場合は、多くの企業が就業規則上、懲戒解雇事由として定めている「刑罰法規の適用を受け、又は刑罰法規の適用を受けることが明らかとなり、会社の信用を害したとき」を適用させて処分を検討することになります。
 

コメント

キャリタス就活が行った調査結果を見る限り、WEBテストで不正を行って入社した社員が各社に相当割合いるおそれがあります。 上述のように、WEBテストの替え玉受検等を理由とする懲戒解雇には慎重な判断が必要になりますが、少なくとも降格・けん責・減給・出勤停止などができるよう、就業規則の懲戒事由の規定に、「会社の採用試験において不正行為を行ったことが発覚したとき」といった内容を盛り込んでおくが考えられます。 今後、自社でWEBテスト不正が発覚したときに具体的にどのように対応するか、今のうちに検討しておくとよいでしょう。
 

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