はじめに
トヨタ自動車のグループ会社・株式会社豊田自動織機は、繊維機械・自動車の車両・エンジン・コンプレッサーなどを製造しているメーカーです。3月17日、豊田自動織機は、同社の製造するフォークリフト用のエンジンに関し、不正が発覚したと発表しました。不正の対象となったのは、ディーゼルエンジンおよびガソリンエンジンで、それぞれにおいて、劣化耐久試験における法規違反の可能性や排出ガス規制値の超過が見つかったとしています。該当するエンジンを搭載するフォークリフトについては、出荷を停止するとしています。
発覚のきっかけは米国認証
今回の不正が発覚したのは、北米向けガソリンエンジンの認証申請がきっかけでした。
2020年後半、豊田自動織機は、北米向けガソリンエンジンの2021年用年次認証申請に際し、アメリカ環境当局からのデータ確認や問い合わせへの対応を実施していました。その後、2021年5月、アメリカ環境当局への対応の過程で、申請済のデータに懸念をもち、外部弁護士による調査を自主的に開始したといいます。
2022年1月には、外部弁護士による調査範囲を、国内のガソリンエンジン認証まで拡大。2022年4月からはディーゼルエンジンについて、劣化耐久試験を含む検証・調査を開始していました。そして、今年3月、豊田自動織機は排出ガス国内認証に関する問題を確認。今回の発表へと至りました。
豊田自動織機は、対象となるエンジンを搭載したフォークリフトの出荷停止を決定しましたが、その生産規模は月産1万4000台に及ぶとされています。
こうした不正について、国土交通省は「極めて遺憾」とし、豊田自動織機に対し、過去のエンジンを含めて事案の全容解明と再発防止策を策定することなどを指示しました。さらに、20日には、道路運送車両法に基づき、本社への立ち入り検査を実施。過去の試験データなどを確認のうえ、行政処分も検討するとしています。
豊田自動織機は、国土交通省をはじめ、環境省、経済産業省に今回の一連の不正を報告しており、今後は関係省庁の判断や指示を踏まえて、出荷再開や市場措置に向けた取り組みと再発防止に努めるとしています。
なお、虚偽報告に対しては、改正道路運送車両法にて、
・1年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科(違反者)
・2 億円以下の罰金(法人)
といった罰則が設けられています。
「型式指定に係る不正事案の防止に向けた 国土交通省における自動車メーカーに対する 監査の強化等について(国土交通省自動車局)」
不正の具体的な内容
豊田自動織機の発表によりますと、不正の対象となったエンジンは、ディーゼルエンジンが「1ZS型」、「1KD型」の2機種と、ガソリンエンジンが「4Y型」の1種の計3機種です。上述の外部弁護士による調査等でこれまでに判明している不正行為の内容は以下です。
(1)ディーゼルエンジン
①耐久試験にて排出ガスの成分の推定値を使用
劣化耐久試験中に排出ガス中の PM (粒子状物質)値が高くなったため、試験の途中で燃料噴射装置の改良を実施。その後、本来、改良品を装着したエンジンの試験をやり直すべきところ、試験を行わず、代わりに改良品を装着した場合のPM値の推定値をシミュレーション。シミュレーションで得られた数値を試験結果とした。
②試験の運転モードにエンジン側の制御ソフトを操作して対応
本来、ベンチテスト用の設備(作業台)側で、試験で求められるエンジン運転条件(仮想環境)を成立させるべきところを、エンジン側の制御ソフトを操作することで、エンジン運転条件を成立させて試験を行った。
(2)ガソリンエンジン
①試験中に部品を交換
試験中に排出ガス中のNOx値(窒素酸化物値)が高くなったため、O2センサ(燃焼状態を測定するセンサ)の影響を確認するべく、一時的に仕様の異なるO2センサを使用してNOx 値を測定し、試験を継続した。
②排出ガス成分の実測値をそのまま使用せず
異常が出た一部の測定値をそのまま使用せず、同じ型のエンジンの別の耐久試験の測定値を試験結果とした。
コメント
一部専門家は、今回、豊田自動織機が不正を行った背景として、エンジン開発スケジュール遵守へのプレッシャーがあったのではと推測しています。例えば、PM値の規制値超過に対応するためには複数回の燃料噴射装置の改良が必要となる場合があり、改良→試験を繰り返すことで、開発スケジュールに大きな遅れが生じるおそれがあるといいます。こうした状況下で、改良→再試験を行わず、推定値を使うことで、開発スケジュールを遵守しようとした可能性が指摘されています。
コンプライアンス違反を起こす社員の中には、実は、真面目で責任感の強い人も少なくありません。定められた期限、定められたノルマを我武者羅に達成しようとする過程で、優先順位を誤り、不正に手を染めてしまうケースも多々あります。法令、契約、社内ルール、社内慣習等に対し、どのように優先順位をつけて仕事を進めるのか。法務の立場からの意識付けが重要になります。